研究課題
研究活動スタート支援
本研究では、mRNAデリバリーによって抗アポトーシス因子Bcl-2を導入することで、劇症肝炎の治療を目指す。まず、レポーター遺伝子を用いデリバリーに用いるmRNAキャリアの最適化を行った。当研究室で開発した生体適合性ナノミセルを用いることで、生体内でのmRNAの分解が効果的に抑制され、マウス肝臓に対して導入に伴う炎症反応を最小限に抑えたまま、高効率なルシフェラーゼ発現mRNAの導入が可能となった。一方で、カチオン性脂質やポリマーからなる市販の核酸導入試薬では、投与後の高い炎症反応のため十分なmRNAの導入が困難であった。続いて、GFP発現mRNAを導入し肝組織中での発現の分布を調べたところ、ほぼ100%の細胞に均一な発現が観られた。一方で、従来より広く研究されてきたDNAデリバリーでは、発現の分布が不均一で、多くの標的細胞ではGFP発現が全く観察されなかった。これは、DNAでは核移行の過程が発現の大きな障害になるためであることがin vitroの解析から分かった。一方で、mRNAは細胞質内で発現するためこのような障害がない。本研究にて抗アポトーシス因子のような細胞内タンパク質を用いて治療を行う際に、均一な発現が得られることはとりわけ重要である。実際に、予備実験的にFasリガンド投与による劇症肝炎モデルマウスに対して、ナノミセルを用いてBcl-2発現mRNAを導入したところ、未治療群と比べて肝組織におけるアポトーシスが抑制された。一方で、DNAデリバリーにてBcl-2を導入した場合は、効果が得られなかったが、これは発現が不均一で多くの標的細胞にBcl-2の発現が得られなかったためと考えられた。このように、劇症肝炎の治療を目指す際、均一な発現が得られるmRNAデリバリーがDNAデリバリーと比べて優れていると考えられた。以上のように、肝臓へのmRNAデリバリーについての基礎的な評価を終え、更に治療実験においても有望な結果を得た。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度に計画していた肝臓へのmRNA導入に用いるキャリアの最適化、Bcl-2発現mRNAの作製、FasリガンドやコンカナバリンA投与による劇症肝炎モデルマウスの作製について完了した。更に、平成26年度の計画を前倒しして劇症肝炎モデルを用いた治療実験を行い、TUNEL染色を用いた肝組織中におけるアポトーシスの観察おいて有望な治療効果が得られた。また、従来から広く研究されてきたDNAデリバリーと比較した際に、mRNAデリバリーではほぼすべての標的細胞細胞に対して均一な発現が得られるという、当初予想していなかったような新たな知見を得ることにも成功した。分泌タンパク質を用いた治療を行う場合は発現の分布が不均一でも効果が得られる一方で、細胞内タンパク質を導入して個々の標的細胞の機能を直接制御しようとした場合は均一な発現が必須である。実際に、本研究の細胞内抗アポトーシス因子の導入において、mRNAデリバリーはDNAデリバリーと比べて優れた効果を示している。このように、平成25年度の計画を完了させ、平成26年度の計画も前倒しで行っている上に、当初の計画では予想できなかったような新たな知見も得られており、当初の計画以上に進展していると考えられる。
上記のように、予備実験ではあるが、mRNAデリバリーにて一定の治療効果を得ることに成功した。今後、個体数を増やし、治療効果について詳細な検討を行う。また、これまでは組織切片におけるアポトーシスの観察にて治療効果が得られただけだが、今後肝逸脱酵素を指標とした肝傷害の評価や生存率の評価といった他の指標での評価についても検討を行う。このような治療効果に関する詳細な評価を行った後、国際一流誌への投稿を目指し論文の執筆を行う予定である。Bcl-2以外にも抗アポトーシス因子は数多く存在する。XIAPやsurvivinといったアポトーシスシグナルにおいてより下流で働く因子を用いることで、より強い効果が得られる可能性がある。また、aktやheat shock proteinは、アポトーシスシグナルにおいてより上流に位置し、抗アポトーシス作用以外でも様々な細胞機能を制御しているため、これらを用いることで多面的な効果が得られる可能性がある。これらの因子もBcl-2と同様に細胞内タンパク質であり、かつ抗アポトーシス作用を持つためDNAデリバリーによる導入は現実的ではない。このような因子についても細胞実験を含めて詳細に検討することで、劇症肝炎に対するより効果的な治療を構築することを目指す。また、本研究において見いだした、mRNAデリバリーの均一な発現が観られるという特長は、劇症肝炎以外の様々な疾患の治療への応用において重要である。劇症肝炎と同様に、アポトーシスが関与する疾患として、脊髄損傷や虚血性疾患が挙げられる。これらの疾患のモデル動物について既に当研究室において確立されていることから、本システムのこれらの疾患への応用も検討する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Biomaterials
巻: 35 ページ: 2499-2506
10.1016/j.biomaterials.2013.12.012
巻: 35 ページ: 5359-5368
10.1016/j.biomaterials.2014.03.037
Journal of Controlled Release
巻: 183 ページ: 27-34
10.1016/j.jconrel.2014.03.021
巻: 35 ページ: 3416-3426
DOI: 10.1016/j.biomaterials.2013.12.086
Macromolecules
巻: 46 ページ: 6585-6592
10.1021/ma401093z