本研究の目的は、国際大会に出場するようなエリート・スポーツ選手の育成を目的とするアマチュア・スポーツ組織(以下、ASO:Amateur Sports Organization)と、ASOに商業化をせまる社会的圧力との関係性を再検討することである。既存研究は、「商業化はASOの自律性を損なうため、ASOは商業化を嫌う」という単純な対立構造を前提としている。しかしながら現実的には、商業化はASOに便益をもたらすこともあり、その実態は明らかにされていない。平成26年度は、次の3つの作業により、組織が商業化に反応・選択してきたメカニズムを明らかにしていった。第一に、ビジネス化の背景がパネルデータで整理されているので、それを統計的に処理し、ビジネス化に重要な要因が何だったかを特定した。この分析から、経営状態(とくにROA)の悪化、外国人株主の増加、終身雇用制度を止めたことが重要な要因とわかった。第二に、その分析結果を踏まえた上で、ASOがビジネス化した経緯を、企業担当者や監督、選手といった主体にインタビュー調査を実施した。第三に、集めたデータを定性データ分析ソフトにより分析した。その結果、ASOがビジネス化するメカニズムとして、2つのパターンが確認された。第一が、ASOの意図とは関係なく強制的にビジネス化する場合である。これはASOにとって自律性を大きく損なうというデメリットが多いものの、それが必ずしもASO組織の衰退につながるわけではなかった。ASO組織の改革が進むことで、マネジメント能力がビジネス化以前よりも高まることがあるのである。第二が、ASOがむしろ積極的にビジネス化を推進していく場合である。この際、ASOの代表者(監督)は、アスリート、ASOの支援企業、支援企業の株主および従業員という4者の利害のバランスを取りながら行動し、自律性をほとんど失わない形でビジネス化していた。
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