本研究は、江戸時代に交通手段の一つとして活躍した駕籠について、木部の技法・材料・構造に焦点を当てて行った研究である。駕籠は現在も全国各地に残されているが、その具体的な内容については文献にも詳しい記載がなく、木工技術の視点での研究もされていない。そこで本研究では肉眼観察と実測を中心とした現地調査を行い、内容を明らかにすることにした。得られた成果が今後の修復作業の手掛かりとなり、多くの人に駕籠についての理解を深めてもらうことがこの研究の目的である。 駕籠は大きく「乗物」と「駕籠」に分けられる。支配者層(武家など)が使用したものが「乗物」、被支配者層(庶民)が使用したものが「駕籠」である。つくりも用途も異なり、「女乗物」「官僧用乗物」「法仙寺駕籠」「山駕籠」等が存在する。これらの中から数挺ずつを調査対象に選び、59挺を実際に確認し、その内20挺について詳しい調査を行った。肉眼観察では、木工技術や材料について観察し、実測では詳細に採寸した後に正確な図面を作成した。調査から明らかになった内容の一例としては、乗物と駕籠では主構造(骨組み)が大きく異なる点が挙げられる。四方板張りの乗物は四隅に木の柱材を立てて骨組みを作るが、竹組みの駕籠の場合は木の枠に曲げた竹を固定して骨組みとする。材料の使い方も異なり、高級な乗物ほど材料をふんだんに使うため重く、移動だけが目的の庶民使用の駕籠では、最低限の材料で軽くするための工夫が施されている。 紀要掲載の論文『女乗物のつくりと材料の研究』では、女乗物の構造や材料について論じた。また、『婚禮道具圖集』に描かれた女乗物の解説図との比較から、当時の製作における雛形であった可能性を指摘した。 最終段階では、研究内容を広く一般の方にも知ってもらう目的で小冊子を制作した。駕籠の起源、つくり、種類、用途等について幅広く扱い、展示解説や企画にも活用することができる。
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