本研究は、コモン・マーモセット(以下マーモセット)を用いて、父親の養育行動と子の成長発達の関係を調べることにより、育児における父親の役割を明らかにするとともに、近年増加しつつある一人親家庭または発達障害の子を持つ家庭に対して必要な支援を、親側のニーズのみではなく、子への利益という別の視点から考察することを目的とする。初年度は、主に定型家族グループの行動観察と、学習や認知課題からマーモセットの基礎的なデータを得た。本年度は、さらに父親との同居期間が短いモデル家庭の動物に行動観察および学習・認知課題を与え、その結果を比較した。 マーモセットは、出産直後から父親が授乳以外の養育行動を頻繁に示し、子は一日に何度も母親と父親の間を移動したが、父親が不在の場合はその移動がなく、新生仔の移動量は制限されていた。そのためか、子が単独で親から離れている状態が観察される時期が遅かった。仔の体重の成長は、どちらの条件でも変わりはなかった。社会性試験、弁別学習試験、第三者公平性評価試験などを行った結果、3チャンバーテストにおいては、父親の養育をはく奪された子は、他個体がいないチャンバーでの滞在時間が定型家庭の子よりも短い傾向があった。このことは、社会性の不安傾向が示唆された。一方で、学習試験や社会認知課題では差は認められなかった。 これらのことから、父親マーモセットの養育行動は、母親が行う養育行動を物理的にサポートするものであると同時に、子にとって社会的・心理的な側面でも重要な役割を担っていることが示唆された。
|