骨格筋は、タンパクの合成と分解のバランスを保つことで形態や機能を維持している。心臓疾患、癌、糖尿病などの慢性疾患や加齢は、そのバランスが不均衡になり骨格筋萎縮を引き起こし生活の質を著しく低下することから、骨格筋萎縮の分子メカニズムを解明し筋萎縮の予防に応用することは重要な課題である。 慢性疾患や加齢による骨格筋の萎縮は、酸化ストレスの増大が主たる原因と考えられており、これを抑制することで筋萎縮の予防や軽減が期待できる。これまで申請者は、一酸化窒素(Nitric Oxide: NO)誘導体の投与が抗酸化酵素の発現を増加させ、酸化ストレスを軽減することで骨格筋の萎縮を抑制することを報告している。定期的な運動は骨格筋萎縮を軽減する効果的な予防方法であるが、運動により増加するNOと抗酸化酵素の産生に着目し骨格筋萎縮予防の分子メカニズムの解明を試みた報告はない。そこで本研究では、運動により増加するNOに着目し、NOの増加が抗酸化酵素の産生を調節する分子メカニズムの解明について検討した。 方法は、マウスに4週間の自発的運動を行わせ、運動期間終了後に足底筋、ヒラメ筋および腓腹筋を採取し、抗酸化酵素の発現を評価した。また、マウスにNO誘導体を投与し抗酸化酵素の誘導に重要な役割を果たす細胞内ストレスセンサータンパクの発現と活性化の評価を行った。その結果、4週間の自発運動は骨格筋のSOD1、SOD2およびSOD3などの抗酸化酵素タンパクの発現を増加した。マウスへのNO誘導体投与は細胞内ストレスセンタータンパクの核内移行を促進し、その移行は慢性疾患や加齢により萎縮する速筋よりも萎縮しにくい遅筋で顕著に見られた。これらの結果は、筋収縮によるNOの増加は細胞内ストレスセンサーを活性化することで抗酸化酵素の発現を増加する可能性を示唆している。
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