骨格筋量の維持・増加は、スポーツパフォーマンスの向上にとどまらず、高齢者の転倒防止や生活習慣病の予防(筋量の増加により消費エネルギーも増加する)に重要な役割を持つ。近年我々は、活性酸素種が骨格筋肥大に関与しており、抗酸化物質の投与により骨格筋肥大が減弱することを報告した。一方で、抗酸化物質摂取が不活動や加齢などで生じる過度な活性酸素種が原因である、筋萎縮を防ぐことを報告した研究も多数存在する。これらの報告から、体内で発生する「活性酸素種の量」と「抗酸化物質の摂取量」のバランスによっては、抗酸化物質が骨格筋にとってプラスの効果をもたらす可能性があると予想される。本研究の目的は、骨格筋適応に抗酸化物質が及ぼす効果について、その容量依存性に着目して、組織・細胞・分子レベルから検討することである。今年度は、抗酸化物質がどのような機序で急性レジスタンス運動後の筋サイズ調節関連シグナル伝達経路に影響を及ぼすか明らかにするため、抗酸化物質の効果の経時的変化について検討した。11週齢のSprague-Dawley系雄ラットを対象として実験を行った。抗酸化物質の腹腔内投与後に、右後肢に対する電気刺激を行い、等尺性最大筋収縮を引き起こした。左後肢はコントロール脚とした。レジスタンス運動1時間後および6時間後に腓腹筋を採取し解析を行った。その結果、レジスタンス運動は筋タンパク質合成の指標となるp70s6kのリン酸化を亢進するが、抗酸化物質は運動1時間後の時点において、p70s6kのリン酸化を抑制することが確認された。以上の結果から、抗酸化物質は運動終了後早期の時点で筋タンパク質合成に影響を及ぼすことが示唆された。
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