本研究は、起床時コルチゾール反応(Cortisol Awakening Response :CAR)によりスポーツ競技者の心理的ストレス状態を定量化することを目的とし、専門的トレーニングによるトレーニング負荷を定量化した上で、心理的ストレス及びCARとの関連性を検討した。CARは、心理的ストレスの水準によって異なる反応を示すこと、連続複数日での個人内変動の安定性が高いことが明らかとなっている。一方でコルチゾールは高強度の運動による身体的ストレスによっても分泌が促進されることが明らかとなっている。従って、CARをスポーツ競技者の心理的ストレス指標として適用する場合、日常的なトレーニング負荷を定量化した上で心理的ストレス及びCARとの関連性を検討していく必要がある。 研究1はIzawa et al. (2010)を参考にして、すでに競技を引退した体育系大学生を対象に卒業論文発表会に対する一過性の心理的ストレスがCARに及ぼす影響を検討し基礎データの収集を行った。その結果、発表2週間後に対して発表1週間前及び3日前はネガティブ気分の増大及びCARの反応の低下を示し、先行研究と同様に一過性の心理的ストレスに対しCARは鋭敏に反応することが示された。 研究2は、体育系大学柔道部員を対象に専門的トレーニングによるトレーニング負荷を定量化した上で、連続3日間の気分及びCARの変動を検討した。その結果、トレーニング負荷及び気分が連続3日間で変動を示したが、CARの反応は個人内で安定していた。 CARは連続3日間の専門的トレーニングによる身体的ストレス及び心理的ストレスの影響は受けにくいことが明らかとなった。一方で、連続複数日での個人内変動は比較的安定しており、慢性的なストレスを反映する指標としては信頼性の高い指標となり得ることが本研究の知見から明らかとなった。
|