スポーツにおけるメンタルトレーニングに用いられている身体を手がかりとした心理技法(メンタルトレーニング技法)のひとつに漸進的筋弛緩法がある。漸進的筋弛緩法は、身体の各部位を意識的に緊張させ、その後脱力しその脱力していく筋肉の感覚に意識を向けることでリラックスを得ようとするものである。このような方法論の特徴から、日常的に身体に意識を向け動作をしているアスリートにとって取り組みやすい心理技法であると考えられている。本研究課題では、これまで明らかとなっている漸進的筋弛緩法のアスリートにおける心理的効果に加えて、一般の心理臨床において報告されている漸進的筋弛緩法の実施が運動の巧みさに及ぼす影響について検討したものである。実験①では、漸進的筋弛緩法を初めて行うアスリート7名に対して、漸進的筋弛緩法の右足フェーズを実施する前後で右足足関節底屈背屈の繰り返し運動(運動課題)を実施させた。そして、運動課題の背屈動作中にヒラメ筋H反射を測定した。実験②では、アスリート4名を対象に同様の運動課題を実施したが、運動課題の間で実施した漸進的筋弛緩法を左足フェーズにすることで体側における漸進的筋弛緩法の実施が及ぼす影響について検討した。その結果、漸進的筋弛緩法を実施する前と後ではヒラメ筋H反射に違いがみられないことが明らかとなった。漸進的筋弛緩法の影響が直後の運動制御には関係しない、もしくは、抑制性の働きがあり促通効果を抑えたことなどが可能性として考えられる。
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