最終年度となる26年度は、前年度にスイスとドイツで実施した調査を踏まえ、(1)アルプス地域における「観光学」の形成過程、(2)従来の調査で扱っていなかった、オーストリア・アルプス地域における観光史の把握、(3)前年度から続けてきたスイス・アルプス地域の観光史の総体的把握と成果の公表、という三点に重点を置いて、研究を進めてきた。 上記のうち、(1)については、1940年代のスイスの観光業界の主要人物が、戦時下という国際環境のもとで「観光学」の制度化を推進した事実に注目し、観光業界と中立国スイスで活動していた「新自由主義者」との接点が彼らの活動を支える基盤のひとつであることを指摘した。本研究については、2014年9月に開催された西洋近現代史研究会サマーセミナーで「第二次大戦期スイスにおける観光研究の展開と戦後構想」と題する報告をおこなった。現在、活字化に向けて準備を進めている。 (2)に関しては、2014年8月にスイスとオーストリアにて文献の収集を主目的とする現地調査を実施した。この調査では、ウィーンのオーストリア国立図書館等でオーストリアの観光史を扱った文献の収集を進め、今後の比較研究の材料を入手することができた。 (3)については、前年度にある程度進めていたアルプス文化史に関する研究入門書の執筆を終え、内容の改善を進めた。この間、2014年10月11日に慶應義塾大学日吉キャンパスにて開催された、「日本スイス国交樹立150周年記念国際シンポジウム:フランス語圏スイス再考」に参加し、国内外のスイス研究者との意見交換を進めた。最終的な研究の成果として、2015年3月に刊行された、踊共二編『アルプス文化史:越境・交流・生成』(昭和堂)の第4章とケーススタディ(コラム)に寄稿している。
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