本研究は天然資源の開発によって成長するアフリカの経済構造に関する二つの逆説的な問題点を分析することを目的としている。H26年度の研究では,産油国ナイジェリアでは原油を産出するにも拘らずガソリンなどの石油製品を輸入に依存せざるを得ず,外貨が流出している点を低所得産油国のパラドックスと捉えて分析対象とした。しかし石油製品輸入に関しては当初想定していた以上にデータ上の制約があり,特に計量分析は計画通りに進まなかった。そのため,石油製品やエネルギー関連支出についての分析と並行して,ナイジェリアの食糧輸入について分析を行った。資源輸出への依存に伴う農業生産の停滞により,ナイジェリアでは食糧の輸入が増大しているが,この輸入量は原油輸出の増大と比例しており,外貨流出要因として問題となっている。資源輸出の増大に伴って産業が衰退したという点で,ナイジェリアにおける石油精製を含む製造業と食糧生産を含む農業の問題は共通しており,深刻である。またその結果,本来は国内生産で需要を満たせるはずの財を輸入に依存するようになったという点でも共通している。分析の結果,ナイジェリアでは石油輸出の増大とともに,伝統的には生産・消費されてこなかった種類の食糧がアメリカなどから大量に輸入されるようになっていることが見えてきた。これは産油国において,不安定な資源収入に支えられた輸入依存が構造的となり定着していることを示している。また産油国政府にとって,輸入依存によって国内への生活必需品を安価で供給し,国内市場と社会の安定化を図ることが政策上有効なツールとして定着しつつあると見ることもでき,政府支出が国際資源価格の変動や原油産出などの変動に対して従循環的(pro-cyclical)となる構造を持つという問題点が一層明らかになった。
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