今年度は調査地セラム島の固有種であるオオバタンを対象とした参加型トランセクト調査で得られたデータ解析を昨年に続いてさらに進めた。その結果、オオバタンが人為が加わることで維持・創出されている二次林(Human Modified Forests: HMFs)のなかでも、カカオ林やサゴヤシ林にはあまり出現しない一方、広大な天然林に散在していて非集約的に管理されているダマール採取林(マニラコパールノキ Agathis damaraが優占する樹脂採取のための森)と、ドリアンなどの果樹と野生樹木が混交したフォレストガーデンにおいて有意に高い頻度で出現していることがわかった。つまり、オオバタンは、こうした人為の加わった里山林を生息地の一部として組み込んでいることが明らかになった。 また、人びとが土地・植生に対してさまざまな働きかけをおこない、多様な二次林を維持・創出しているセラム島と対照をなす地域として、紙・パルプ原料生産のための植林事業が行われているジャンビ州において、農的な営みを媒介とする人と野生動物の双方向的な関係に関する調査を実施した。同州ではアカシアなどのモノカルチャ栽培が急速に広がっており、セラム島で確認されたような、人為が加わってはいるが自然度の高い「半自然」的景観は乏しく、HMFsが希少種の生息環境の一部をなしているような事実は見いだせなかった。 以上述べたフィールド調査で明らかになった知見や、新たに行った文献調査の結果をふまえて、人と自然(野生動物)の「望ましい」相互関係を守ることを重視した保全策について考察した。
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