本年度は、前年度に引き続き、北京・天津・上海・天津・香港・台湾などの機関にて、天文五行占書の伝本調査を行った。その成果として、勅撰系の主な天文五行占書の伝存状況を大よそ把握し、同時に関連資料の発見など新たな知見も得ることができた。代表的な成果としては次の二点が挙げられる。 第一点は、前年度に調査した蕉林逸史校『乾象通鑑』(復旦大学蔵)に、対となる蕉林逸史集『乾象通鑑後編』(香港大学蔵)が見つかったことである。『後編』は特に東西の天文学を集成した内容であり、当時の天文知識と占いをめぐる具体的な状況も見えてきた。 第二点は、非勅撰系の占書である『礼緯含文嘉』の諸テキストの把握である。本年度の調査では、前年度に調査した『礼緯含文嘉』(淅江図書館蔵)に、さらに二種類の異本(北京大学蔵・天津図書館蔵)が伝存することが分かった。いずれも祥瑞災異を占う性格は共通するものの、淅江本とは別個に撰述されたと考えられる。また、具体的な占法の分析や背景にある理念の解明など今後の課題も見えてきた。 以上の成果に基づき、国際学会や研究会にて報告を行った。特に敦煌学国際学術研討会では、勅撰系・非勅撰系占書の相違点や特徴を整理し、敦煌占書に代表される唐・五代の民間占書との繋がりを提示した。また、国立民族学博物館の学際フォーラムでは、中国の祥瑞災異の特質について報告し、日本の妖怪観念や西洋・西アジアの驚異表象との比較研究に繋がる視点を提供した。 一方で、祥瑞災異思想と鬼神観の関係性についても検討を行った。両者は従来の研究では、あまり明確には関連的に扱われてこなかったが、後漢・王充の『論衡』に両者を通底させる意識が見えることを取り上げ、改めて検討を行った。この成果については、2015年中に東アジア恠異学会の編集で出版される『アジア遊学』(勉誠出版)の特集号に掲載を予定している。
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