今日の経済・産業活動では、人々の行動に伴って生じるさまざまなデータを利用・収集している。本研究はそのうち、リアルタイムで産出されるストリームデータに着目し、それらを安全かつ効果的に利用するためのプライバシー保護要件を情報倫理学的・哲学的な見地から明らかにすることを目的として行った。 本研究の意義は、プライバシー問題の解決のための思考の基盤をより明確にすることと、プライバシーにかかわる法制度や制度設計、インターネットサービスのプライバシーポリシーの策定といった具体的な課題の解決に寄与することである。 平成26年度は、ICT社会におけるプライバシーはそれ自体が価値ではなく他の利益との比較考量によって伸縮する、というトレードオフの妥当性を検討した。ストリームデータを利用する諸サービスは私たちの生活の利便性、健康状態等を飛躍的に向上させると考えられるため、社会全体が利益中心主義に陥りやすく、プライバシーが極端に縮小されることが予測される。本研究では、プライバシーを自己決定に関わるものと捉える場合にはプライバシーと利益をトレードオフの関係で考えることができないという結論に至った。これは、サービスを提供する企業が、保護すべきプライバシーの範囲と、金銭などの利益とトレードオフになって構わない程度の個人に関わる情報の範囲を明確にできることを意味し、萎縮効果の軽減が期待できるので、プライバシー保護一辺倒の議論とは一線を画している。 また、実際のサービス運用におけるプライバシー保護要件の試案をつくり、それをベースに、いわゆる「忘れられる権利」をSNS利用において実現する技術的提案も行った。「忘れられる権利」は、今後ストリームデータの収集が激化するにあたり、自分の知らないうちにデータが集められ、そこからあぶり出された自分についての情報のコントロールをどうするかという問題に対する一つの解答である。
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