本研究の目的は、沖縄返還運動という歴史経験がもつ意義を、鹿児島と奄美という二つの地域に即して明らかにすることであり、平成26年度は、旧薩摩藩にあたる鹿児島地域における沖縄返還運動の調査を中心に行った。 まず、『南日本新聞』に掲載された沖縄返還をめぐる連載記事を分析したところ、施政権返還によって「隣県」となる沖縄との新たな関係性を模索する動きがみられた。このことは、沖縄返還(運動)が、それまでの鹿児島―沖縄関係を再考する機会を鹿児島の人々にもたらしたことを示している。 そのうえで、鹿児島および奄美における2回にわたる現地調査を実施し、鹿児島県立図書館、同奄美分館、鹿児島大学附属図書館等において資料調査を行った。地理的に沖縄に隣接する鹿児島地域は、日本本土における沖縄返還運動の主要な舞台の一つとなった。よって、『南日本新聞』や『南海日日新聞』、現地の労働運動団体・民主団体の刊行物における沖縄返還運動の関連記事を精査することで、全国紙や中央団体の記念誌では記述が乏しい1960年代前半から半ばにかけての初期の沖縄返還運動の様相を明らかにすることができた。また、鹿児島県教職員組合による「沖縄を教える」運動を検討した結果、子どもたちに「沖縄とは何か」を教える教育実践が、教師みずからの対沖縄認識にひそむ無知や無関心の問題を問いなおす契機ともなっていたことがわかった。 旧薩摩藩にあたる鹿児島と奄美地域における沖縄返還運動を連続的に検討することで、鹿児島が日本全体の沖縄返還運動の牽引役となり、さらにそのなかでも奄美地域が鹿児島全体の運動展開を促進する役割を果たすという入れ子の関係がみられた。このことから、沖縄返還運動は中央の動向のみで一様にとらえられるものではなく、当該地域における沖縄との関係性を色濃く反映しながら展開されるものであることが明らかとなった。
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