前年度に「今後の研究の推進方策」として予定していた、以下の三つの研究をすべて遂行した。 (1) ウィトゲンシュタインの講義録および遺稿の翻訳を進める: 2015年1月に、『ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎篇――ケンブリッジ1939年』(共訳、講談社学術文庫)を刊行し、後期ウィトゲンシュタインの議論の内実を、明確なかたちでひろく社会に発信した。また、これと並行して、他の遺稿の翻訳も進行させた。 (2)学会において、ウィトゲンシュタイン哲学にまつわるワークショップを開催する: 2014年6月に、日本哲学会第73回大会において、ワークショップ「ウィトゲンシュタインの哲学を貫くものと分かつもの」をオーガナイズした。これにより、ウィトゲンシュタイン哲学が前期と後期において「変化したもの」と「変化しなかったもの」の内実を共に捉える複眼的な視座を提示した。 (3)文化と啓蒙の側面に関連するウィトゲンシュタインの議論を研究し、論文・研究発表等のかたちにまとめる: スタンリー・カヴェルのウィトゲンシュタイン論やカール・クラウスの議論、あるいは、「信念」概念をめぐるウィトゲンシュタイン自身の議論等を跡づけることにより、「文化批判」や「啓蒙」という観点から、ウィトゲンシュタインの議論の倫理学的な側面を見出した。この成果は、すでに、著書『科学技術の倫理学II』や論文「「ウィトゲンシュタイン的独我論」の構造と意義」、発表「ゲーム、嘘、演技」などの内容に部分的に取り入れているが、今後も著書などのかたちで公開を行っていく予定である。
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