研究課題/領域番号 |
25884028
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
澤田 哲生 富山大学, 人文学部, 准教授 (60710168)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | マルク・リシール / 現象学 / 精神病理学 / エトムント・フッサール / カント / 精神分析 |
研究概要 |
科研費研究初年度の今年度(平成25年度)は、マルク・リシールの著作と論文、現象学および病理学に関わる他の資料の精査を行った。リシールの既刊の著作は20冊を超え、論文は200本近く発表されている。今年度は、リシールが病理的現象について分析した著作と論文を読み込む作業を行った。また、そこで言及される哲学者たち(デカルト、カント、フッサール、等々)の文献の精読も行った。 上記の読解作業の成果を発表する場として、大阪大学人間科学研究科の村上靖彦准教授の研究室で、同大学院の院生たちと、ひと月に一度、リシールの思想に関する研究会を実施した。その後、2014年3月29日に京都大学で開催された日仏哲学会において、「幻想と仮象:若きリシールにおける現象学の新しい創設について(Illusion et apparence : sur la nouvelle fondation de la phenomenologie chez le jeune Richir)」というテーマの研究発表(フランス語発表)を行った。同年3月28日から4月4日まで、ポルトガルのコインブラ大学でリシールをめぐるワークショップが開催されていたので、日仏哲学会の後に、このワークショップに参加した(4月1日にワークショップで研究発表を行ったが、これは平成26年度の実績となるので、翌年度の実績報告書に記載する)。 今年度は、フランスの『現象学年報(Annales de phenomenologie)』誌に「児童のデッサンにおける形相的変更(La variation imaginaire dans le dessin enfantin)」というテーマの論文を発表した。この論文では、児童のデッサンを題材として、リシールの現象学における理念批判と形相的変更の議論の射程とその妥当性を立証した。その他に出版された論文や書評は昨年度の研究活動の成果であるので、説明は割愛する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の前半は、リシールが病理的現象について論じた著作と論文を重点的に読み込んだ。この過程において、リシールの病理論は、哲学史におけるいくつかの概念(デカルトの「悪霊」、カントの「超越論的幻想」、等々)を踏まえて、入念に議論が構成されていることが新たに確認された。それにともない、彼がこれらの概念を、著作と論文のなかでどのように論じたかを検討する必要が生じた。この新たな研究課題が発生したことにより、当初の研究計画に多少の遅れが生まれた。 リシールの扱う病理的現象のなかでも、神経症と倒錯に関してはすでに研究に着手しており、精神病圏の病理的現象(躁鬱、メランコリー、統合失調症、等々)に対するリシールのアプローチを今年度に研究する予定であった。しかし、上記の哲学の概念を踏まえたうえで、精神病圏のみならず、すでに研究に着手していた神経症と倒錯の分析も読み直す必要が生じた。したがって、今年度は、リシールの精神病に対するアプローチを研究するにいたらなかった。しかしながら、上記の哲学的な概念の確認は、研究を遂行するうえで、極めて重要な契機であった。この確認を踏まえたうえで、来年度はリシールの精神病に対するアプローチとその思想史上の重要性を研究する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、科研費研究の最終年度である。研究をいっそう推進するために、次の二点を方策として提示する。 1) まず、リシールが病理的現象について論じた文献、さらに哲学の諸概念に関する彼の議論をさらに精査する。リシールの病理論と現象学哲学の双方向から研究を進めることで、研究活動の立体性が確保される。それにより、研究はいっそう推進されるはずである。この研究推進の方法は、すでに前年度から実践されている。 2) 次に、研究活動の成果を、学会、シンポジウム、ワークショップ、研究会で積極的に発信してゆく予定である。現象学の受容という点に関して、日本には100年近くの歴史がある。しかしながら、リシールの現象学は、その新しさゆえにまだ十分に認知されていない。学会、シンポジウム、ワークショップ、研究会、等々で積極的に研究成果を発表し、参加者と議論を行うことで、リシールの現象学に関する議論の場が形成される。これにより研究に必要な発想がさらに生まれ、研究活動が推進されるはずである。
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