研究実績の概要 |
平成26年度(本研究最終年度)は、リシールの統合失調症へのアプローチを主に研究した。1) フランスの『現象学年報』誌に掲載された論文("Ideal et Verstiegenheit dans la psychose", Annales de phenomenologie, n° 14)、2) ポルトガル・コインブラ大学の研究雑誌に掲載予定の論文("Machination et la moindre vie du sujet. Sur l’analyse de la schizophrenie dans la phenomenologie de Marc Richir", Volume Marc Richir (仮題))の二点が、全四件のうちの主たる研究成果である。 1)では、スイスの精神科医ルートヴィッヒ・ビンスヴァンガーの統合失調症分析を検討することで、リシールが「超越論的精神病」と呼ぶ概念の妥当性を提示した。2)では、リシールの統合失調症分析を精査することで、彼のアプローチの現象学的および哲学的な重要性を提示した。両論文とも、リシールのアプローチを検討することで、一般的に「機械化」した存在とみなされがちな統合失調症患者の行動と思考のなかに、患者独自の過剰な理性主義を読み取った点が、研究の重要な成果であった。 また前年度に行われた、リシールの神経症と倒錯現象へのアプローチに関する研究が論文として公刊された。これにより、精神疾患の三つのタイプ(神経症、倒錯、精神病)に対するリシールの現象学的アプローチの研究が包括的に研究され、本研究は当初の予定どおりに終了した。
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