本研究では、近畿・北陸地域を対象とし、紡織に関わる出土遺物の調査に基づき、古墳時代から律令時代までの紡織技術の特徴を考察することを目的とした。 北陸地域とその周辺部を中心に古墳時代から古代を中心とする出土織物・紡織具を集成し、一部について調査を行った。なかでも古墳時代前期~中期の福井市高柳遺跡では各種の紡織具が出土している。当遺跡では鉄滓や漆塗りの刀装具なども出土し、機織のみならず、鍛冶・木工・漆工など各種の手工業生産が集約的に行われており、重要視できる。さらに、周辺の古墳副葬品における織物についても分析を進め、紡織具・織物の総合的検討を行う必要がある。 北陸地域では原始機部材として、石川県小松市八日市地方遺跡出土品が知られていたが、福井県勝山市志田神田遺跡でも輪状式原始機の布送具が出土しており、両端に施された文様構成など他地域との比較検討を行う余地がある。また、福井県内の遺跡出土の紡錘車の集成を新たに進めた結果、時代ごとの材質・形状の特徴は、近畿地域での傾向とほぼ同様であることが確認できた。 出土織物に関して観察・記録を行った。過去の研究で材質同定が行われ、麻と絹が判別できる資料を対象とし、組織と織り技法の特徴を調査した。なかでも平織の麻と絹について時代・地域別に組織の特徴が異なり、使用する織機の種類(原始機・地機・高機)との関連性について分析を進める必要がある。また、律令時代の織物生産について文献史料に基づく研究史の整理を行い、古墳時代後期から古代の出土織物・紡織具との関連性について検討した。
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