本研究は、紀元前6世紀から紀元4世紀までの小アジア西部から出土した韻文のギリシア語墓碑銘を調査し、ギリシア人(ここではギリシア語話者と定義する)が個々の死のプロセス・死因(病死、戦死、産褥死、「たたり」による死など)にたいしてあらわした感情(悲しみ、怒り、誇り、喜びなど)と、その感情を表現する際に用いた戦略を明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度の研究成果を受けて、まずギリシア語墓碑銘のデータベースにたいし特に死のプロセスとレトリックという観点から分析を加えた。主にヘレニズム時代からローマ帝政期にかけて小アジアと一部ギリシア本土・島嶼部に建立された数点の墓碑銘は、詳細な死のプロセス(病気の進行、手術の様子、殺人の経過、戦死の状況など)を描いている。本研究は、これらの韻文墓碑銘の知的背景として当時の一般社会の医学知識と歴史叙述のトレンドを想定し、その上で死者から取り残された家族と社会が死をどのように受け止めたのかを、同時代の社会・政治状況との関連から明らかにした。この研究の成果の一部を、本年度9月に京都で開催された国際会議で報告し、参加者からフィードバックを得た。また、本研究の背景となる広義の宗教事情に関する研究報告を、アテネで開催された国際会議と東京で開催された国内学会で報告した。さらに、在アテネのBritish School at Athensで資料調査をおこなった。
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