本研究の目的は、1990年代よりフィジーを中心に発展してきた絵画芸術のスタイルや世界認識(「レッド・ウェーヴ・アート」)が、オセアニア島嶼域各地へとひろがっていく動態を追跡・分析することにある。二年目であり最終年度である平成26年度は、以下のとおり文献研究および海外調査研究を中心に、研究をおこなった。 1. 文献研究 おもに人類学的芸術論、図像研究、地域主義政策、オセアニア地域研究にかんする文献研究をおこなった。とりわけ、美学や芸術論、図像研究における論点を人類学の潮流と総合するための理論的考察をおこなったほか、オセアニア島嶼域の物質文化にかんする文献を渉猟し、本研究の理論的発展をめざした。 2. 海外調査研究 レッド・ウェーヴ・アートの本拠地であるフィジー(26年8月)、メラネシア地域のニューカレドニア(26年9月)、ヴァヌアツ(26年9月)、およびポリネシア地域のアメリカ合衆国ハワイ州(27年1月~2月)にて海外調査をおこなった。フィジーではレッド・ウェーヴ・アートの制作者をはじめとする関係者を対象に参与観察をおこなったほか、あらたに制作された絵画作品のデジタル画像を収集し、約3年間の変遷を分析した。ニューカレドニアでは、チバウ文化センターでの調査を中心に、カナク先住民やオセアニア島嶼民の絵画制作活動におけるレッド・ウェーヴ・アートの影響にかんするデータの収集・分析をした。ヴァヌアツでは、首都ポートヴィラに位置する市場やヴァヌアツ国立博物館を中心に、現地の絵画制作活動におけるレッド・ウェーヴ・アートの影響にかんするデータの収集・分析をおこなった。アメリカ合衆国ハワイ州では、土産物、各種商品図像におけるレッド・ウェーヴ・アートの影響にかんするデータの収集・分析をおこなったほか、図書館・文書館等にて植民地期におけるオセアニア島嶼域の地域性にかんする資料を収集した。
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