本研究は、中国古代の新出土簡牘を研究対象とし、それらを伝世文献と比較することにより、従来、資料的制約により不明であった思想史の変遷過程を明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き、楚地より出土した可能性が指摘されている「清華大学蔵戦国竹簡(清華簡)」の『周公之琴舞』と『ゼイ(クサ冠+内)良夫毖』とを取り上げて検討した。その結果、得られた成果は以下の通りである。 1.清華簡『周公之琴舞』 まず、逸詩を多く含む本篇全体の釈読を行い、次いで『周公之琴舞』の特徴として、①経書である今本『毛詩』とは異なり、文献の冒頭にその詩の詠まれた状況を示す場面設定が述べられていること、②またこの場面設定の明記が、清華簡に含まれるその他の文献にも共通する特徴であること、③さらに、本篇には天が降す徳の記述や、統治者や臣下にも徳の修養が求められていたこと、祖考祭祀に関する内容が多く見られること等から、子思学派が周公旦に仮託して編纂した文献であった可能性があることを指摘した。 2.清華簡『ゼイ(クサ冠+内)良夫毖』 本篇についても、まずはその全文を釈読し、次いで他の伝世文献との比較を試みた。その結果、ゼイ(クサ冠+内)良夫の故事として、『国語』や『史記』に見られる「専利」批判に加え、本篇にも「詩」や「書」で説かれる教誡的内容が多く含まれていることが明らかとなった。また、本篇には今本『毛詩』伐柯や逸詩「支」の一部と考えられる詩句の引用が見られたが、すでにそれらは本来の意から転じた成語的用例として記述されていたことを指摘した。 以上の検討を通して、詩書関連文献に見える佚文・逸詩の釈文整理が進展し、また、従来不明な点の多くあった楚地における経書関連文献の受容状況や特質についても、その一端を明らかにし得たと考える。なお、上記の成果については、国際学会で研究発表を行い、論文を学術誌へ投稿している。
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