本研究は近世ベトナムにおける集落の成立過程と地方有力者の検討を目的とし、ゾイテー集落において野外調査を行い、以下のことを明らかにした。第一にゾイテー集落は清化集団の一員である張雷の一族が入植することにより15世紀に成立した田庄であった。17世紀前半には張族の田庄経営は崩壊したが、その後も張族は集落の徴税請負人として影響力を維持している。第二に17世紀中頃の碑文に現れる張曰貴は、上記の張族の子孫である。この村には彼を祀ったデン(神社)が20世紀前半まで存在しており、そこでは彼は張族の祖先神としてではなく、集落全体の守護神として祀られていた。これらは、清化貴族集団の土着化を示す一事例といえる。
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