前年度に引き続き、印仏・摺仏の制作と関連の深い、大量造像の代表的な彫刻作例である千体地蔵像に注目し、京都・報恩寺地蔵菩薩像の造形的特質を検証した。本像は岩山の中央に地蔵菩薩像1躯を配し、その周囲に大量の微細な地蔵菩薩像が立ち並ぶさまを表現した作例で、岩山は地蔵の住処とされる■(キャ)羅陀山をあらわす。岩座上に坐す地蔵菩薩像をあらわした版画作例には、京都・六波羅蜜寺地蔵菩薩坐像の納入品である地蔵菩薩坐像印仏がある。こうした作例の存在を念頭に置くことで、大量の地蔵印仏を納入する地蔵彫像は■(キャ)羅陀山に出現する千体地蔵を意味するとの見通しが立てられた。今後は、小地蔵像を彫像として中尊の周囲に配する場合と、印仏として彫像内に納入する場合の信仰上の相違をあきらかにしてゆきたい。 文献史料研究では、往生伝や霊験記の類のほか『楞厳院二十五三昧結衆過去帳』などにも注目し、「印仏」の語の用例を収集した。その結果、10~11世紀には用例が増えてくることが確認され、印仏の像内納入の前提となる信仰が浸透しつつあった状況が推察された。ただし、史料上に見える「印仏」はほとけの姿を観想するのみで版画を制作しない場合もありうるので、今後も慎重に検証してゆく所存である。また、『小記目録』や「比丘尼法薬埋納作善供養目録」などには、木版印刷を意味する「摸」の用例を見出すことができた。これらは仏教版画制作の問題と密接に関わるので、用例の収集および検証を継続したい。像内納入に関しては、『仏説文殊師利般涅槃経』に「身内心処に真金像あり」との記述を見出した。この記述は仏像の像内に小像を納入する信仰の根拠のひとつと目されるため、類似の記述を他の経典にも広く求めながら、造像との関わりをより深く考察してゆきたい。
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