本年度は以下四篇の論考を発表した。 第一は、「王通と『中説』の受容と評価ーその時代的な変遷をたどってー」(『東方学』第128輯)である。ここでは、隋・王通『中説』に見える家学への拘りと、王通の孫・王勃による継承、宋代における王通の学問の影響について考察を行った。また王勃による王家の家学継承については、王勃の文集を読解する「隋唐精神史研究会」への参加が有意義であった。 第二は、王通『中説』の訳注稿を連載することとし、その第一回目「王通『中説』訳注稿①」(『香川大学教育学部研究報告第Ⅰ部』第143号)を発表した。これは今後10回にわたり連載の予定である。 第三は、「新王朝への意識ー盧思道と顔之推の「蝉篇」を素材にー」(『六朝学術学会報』第15集)である。これは、盧思道と顔之推の二人が蝉を題材に唱和した作品の分析を契機として、北朝士大夫による国家観の内実を明らかにしたものである。また北朝士大夫の意識については、京都大学人文科学研究所において開かれた研究班「北朝石刻資料の研究」への参加から啓発を受けた部分が多い。 第四は、「顔之推における『顔氏家訓』と『冤魂志』」(『中国思想史研究』第35号)である。顔之推の『顔氏家訓』と並ぶ代表著作である『冤魂志』に注目し、両著作が顔之推が士大夫として生きる上で如何なる意味を持っていたのかについて比較検討した。
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