平成26年度は、ウォレスの進化社会主義における〈機会の平等〉という理念の位置づけと比較しながら、ベンジャミン・キッドの社会進化理論における〈機会の平等〉概念を分析した。特徴的なことは、両者とも〈機会の平等〉をダーウィンの進化メカニズムと結びつけている点である。キッドは機会の平等が実現していくことで生存競争の裾野が広がり、競争が苛烈になることでますます社会進化が進展すると論じている。一方、ウォレスは、機会の平等を生存競争を通じて人間性が進化する前提条件ととらえ、機会の平等を実現するために土地国有化を中心とする社会改革を求めた。このように、ウォレスとキッドがどのように〈機会の平等〉と進化のメカニズムを結びつけているかを分析し、両者の理論における〈機会の平等〉の位置づけがどのように異なるのかを明らかにした。 また、キッドの社会進化論において、人口という概念がどのような機能を果たしているかを分析した。キッドは、人口増加の圧力が社会進化の原動力だと考えるとともに、人口増加を社会進化の結果とみなしている。また、人口増加の圧力があるため平等社会は不可能だと論じ、人口理論を武器に社会主義を批判している。このような分析を通じて、キッドの社会進化論において人口が重要な機能を果たしていることを明らかにした。 19世紀終わりから20世紀初頭にかけての新聞や雑誌などの調査では、キッドが『社会進化』を出版する前から、そして出版した後も、社会主義者たちが〈機会の平等〉という理念を提起していることが明らかになった。 この調査結果から、〈機会の平等〉という理念が社会主義からニュー・リベラリズムに取り入れられる過程で、進化社会理論が一定の役割を果たしていたという仮説が導き出される。しかしながら、この仮説を論証するためには、更なる思想テクストの分析と新聞や雑誌における言説の分析が必要である。
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