研究課題/領域番号 |
25884053
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
大坪 亮介 大阪市立大学, 文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (10713117)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 国文学 |
研究概要 |
平成25年度の研究計画に基づき、足利義満が明徳2年(1391)に有力守護山名氏清らを滅ぼした、いわゆる明徳の乱を描いた軍記『明徳記』を主要な分析対象とした。基礎的作業としては、翻刻・影印・画像データの公開等がされていない諸本を国立公文書館にて実見、比較検討を行った。先学が既に指摘するように、『明徳記』は将軍義満と管領細川頼之という体制のもとで謀反が鎮圧されたという構造を持つ。本年度の研究ではまず、こうした『明徳記』の構造の背景について、山名の寺社本所領押領が作中繰り返し批判される点に着眼して考察を加えた。すなわち、管領頼之の実際の政策が寺社本所領保護に積極的であったこと、そして、義満・頼之体制の時代が寺社本所領保護を推進した時代として記憶されていること等を手がかりにして、如上の『明徳記』の構造が、守護による寺社本所領押領という土地をめぐる公武の軋轢と連動している可能性を探った。 さらに、当時の歴史叙述における公武の問題について、応永6年(1399)に勃発した大内義弘の謀反を描く軍記『応永記』との比較を行った。同種の事件を扱いながらも、『明徳記』では反逆者が朝敵と認定されないのに対して、『応永記』では積極的に朝敵と認定される。この違いについて、南北朝合一という時代状況との関連を想定した。当時の歴史叙述における公武の問題については、朝廷の権限を幕府が次第に接収していった義満期特有の動きを視野に入れつつ、今後も継続して検討すべき課題であると思われる。 また、以上の研究の補助的要素として、『太平記』の大内裏描写の分析も行った。巻十二「公家一統政道事付菅丞相事」の壮麗な大内裏の描写は、従来啓蒙的なものと考えられてきたが、実は公武関係の転換点を示すという重要な機能を帯びていることが判明した。その成果は平成26年10月刊行予定の論集に掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の採択と当初予定していた研究発表の日程とが前後したことに加え、本研究による論文の刊行も平成26年度の予定となったため、研究成果の公表という点では、当初の計画とは異なることとなった。とはいえ、平成25年度の研究を通じて、義満期特有の公武のあり方と関連づけて『明徳記』を読み解いていく視界は開けてきたと考えている。具体的には、下巻の山名義理伊勢参宮記事は、これまで主として『明徳記』の成立と時衆との関わりという観点から分析が加えられてきたが、本研究を遂行していく中で、将軍と伊勢の神との関わりについて、さらに考察を推し進める余地が残されていると考えるに至った。ちょうどこの頃は、義満が伊勢参宮への意志を強めた時期にあたっており、実際、南北朝合一後に義満は将軍として初めて伊勢参宮を果たし、本来朝廷の有していた伊勢神宮に対する権限を接収することになる。『明徳記』の当該記事も、かかる義満期の将軍と朝廷との関係を踏まえて理解すべきものと思われる。それは、当初の計画に記した、義満・頼之体制をめぐる問題と将軍と天皇をめぐる問題とを統一的に把握することにつながってこよう。 さらに、『太平記』の大内裏造営記事の分析を通じて、従来啓蒙的な意味を持つと捉えられてきた殿舎や調度の長大な列挙が、実は南北朝期における公武関係の転換点を示すという重要な役割を帯びていたことを指摘できた点は収穫であった。土地問題に着眼して公武関係に対する歴史認識形成の問題に迫ろうとする本研究を遂行していく上で、これは有益な知見であったといえる。 以上を総合すれば、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究計画に基づき研究を遂行していく。すなわち、『承久記』における乱の発端を描く箇所の本文改編を手掛かりとして、『太平記』・『梅松論』・『増鏡』・『神皇正統記』等といった歴史叙述のみならず、法制史料や記録類をも広範に参照しながら、公武の歴史を決定づけた承久の乱に対する認識の様相を探っていく。この作業に加え、源頼朝の総追捕叙任に伴う守護・地頭設置がいかに歴史叙述の中で捉えられているかという点も視野に入れることによって、土地問題が公武関係をめぐる歴史認識形成に与えた影響を見定めていく。 これと関連して、『公武栄枯物語』の諸本収集等の基礎的研究も行う。これは承久の乱を公武双方の視点から描く作品であるが、従来研究対象となることはほとんどなかった。しかし、本研究の趣旨からすれば当然検討の対象とすべき文献といえよう。そこで基礎的研究を行った上で、本研究に活かしていきたい。 また、「現在までの達成度」の欄にも記したように、平成25年度に引き続き『明徳記』における公武をめぐる問題についても、下巻に記された将軍と伊勢の神をめぐる記述に着眼し、この作品と義満期特有の公武のあり方との関わりを考察していく。
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