研究課題/領域番号 |
25884054
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
上野 雅由樹 大阪市立大学, 文学研究科, 講師 (10709538)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | オスマン / アルメニア / 特権 / 帝国 |
研究概要 |
本研究は、19 世紀のオスマン帝国における近代国家化過程において、近世以来の宗教的少数者統治の枠組みがいかに変容していったかのを、支配者としての中央政府と従属者としての宗教的少数者という一方向的な見方ではなく、両者の交渉と相互作用の観点から捉え直すことを目的とし、そのために、1850 年代以降に急激に進展した変革のなかで、オスマン政府とキリスト教徒アルメニア人の利害が対立した諸局面において、いかに利害の調整が図られたのかを検討するものである。 本年度は、1872年に生じたアルメニア人墓地接収問題について考察を進めた。具体的には、市域の拡大によって市街地に取り囲まれることになった墓地群の移転を目指すオスマン政府と、新たな墓地の割り当てを受けながらも旧墓地の譲渡を拒んだアルメニア人との駆け引きを追った。その結果、オスマン政府に対してアルメニア共同体を公式に代表した総主教と、オスマン政府とアルメニア共同体を非公式に仲介したアルメニア人オスマン官僚の役割が明らかにすることができた。加えて、墓地問題を19世紀の都市改革の過程に位置づけることで、こうした過程を単線的に描く傾向にあったこれまでの研究を見直し、都市の政治に注目しつつ、そのなかで各行為主体がどのような利害と背景のもとにそれぞれ行動したのかを分析した。 墓地問題に関する成果を英文の論文としてまとめた後は、1860年代から1870年代に生じた政治的口上書禁止問題に取りかかった。そして、その過程でオスマン政府側とアルメニア人側がどのような論理に基づいて交渉を行っていたのかという点で、上述の墓地問題と通じる点があることを発見した。それは、両者が権利主張の根拠を「特権」や「宗教」、「政治」といった形で表現していたという点である。こうした側面は、オスマン帝国における非ムスリム統治の枠組みを明らかにする鍵になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本研究は、19 世紀のオスマン帝国における近代国家化過程において、近世以来の宗教的少数者統治の枠組みがいかに変容していったかを、支配者としての中央政府と従属者としての宗教的少数者という一方向的な見方ではなく、両者の交渉と相互作用の観点から捉え直すことを目的としている。そのために第一年目においては、文献の収集と史料の読解、墓地接収問題に関する成果発表および政治的口上書禁止問題の分析を行う予定だった。このうち、墓地接収問題に関しては、英文の論文をまとめることができたものの、それを掲載する予定の書籍の刊行が遅れている。その一方で、政治的口上書禁止問題に関しては、当初の予定を前倒しして研究発表を行うことができており、当初の計画におおむね沿う形で研究を進めることができていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定において、次年度は、上述の二つの問題と、共同体首長序列問題を同列に扱う予定だった。しかし、第一年目で明らかになった点の重要性に鑑み、政治的口上書禁止問題を中心に、それ以外の二つの問題の内容を盛り込んだ英文の論文をまとめることが有益であると考えるに至った。そのため、成果のとりまとめは、英文の投稿論文を中心に進めることを今後の方針とする。そのためには、イスタンブルの首相府文書館およびアンカラのトルコ歴史協会にて行う資料調査に十分な時間を割く必要があり、当初の予定と変更して、資料調査を4月末から5月初めと8月の二回にわけて、主にトルコで行うことにした。
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