本研究は、近世関東の中で例外的に大地主の成長が見られた現埼玉県東部地域を主な対象として、地主の成長をその地域の土地制度から検討することを目的とするものである。 本研究ではまず、関東における地主の成長の地域的な不均等性を客観的なデータから確認すべく、明治期に作成された各種統計資料や、地主名簿を収集し、データの整理を行った。次に、その過程で地主の成長が確認された地域について、自治体史や先行研究等の文献の収集を行い、また史料の現存状況や概要について調査し、史料の撮影等を行った。 本研究の開始当初から、地主の成長を支えた仕組みとして、「家守小作」というこの地域に特有の地主小作関係に注目していた。この仕組みはこれまで、現在の春日部市周辺の一部地域においてしか確認されていなかった。そこで上記作業と並行して、「家守小作」およびそれに類似する仕組みが、他の地域においても確認できないか調査を行った。その結果、現春日部市域だけでなく、その南側に広がるより広範な地域においても、同様の仕組みが存在したことが確認できた。これらの地域は、現春日部市域と同様に地主が成長を遂げた地域であり、地主の成長と土地制度との関連がよりはっきりと認められた。 以上のような文献・史料の収集・分析の成果について、その一部を論文の形で発表している(「近世期の埼玉県東部地域―関東大地主研究のための覚書―」(『学習院大学文学部研究年報』第61輯)。今後は一次史料を用いたさらなる実証分析が必要であり、課題は残っているが、当該年度内における本研究の目的は概ね達成できたと言える。
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