本研究は、「予告」および「布石」という文学的手法を、エミール・ゾラをはじめとする19世紀フランス文学を通して考察することを目的とする。昨年に引き続き、物語論的分析、草稿分析、ジャンル比較、平成26年度はそれに加えて作家比較の観点から研究をすすめた。 まず、ゾラの小説では、予告を担う登場人物が草稿段階でどのように造型されているか、『居酒屋』を例に考察し、研究論文を執筆した。この論文はフランスの草稿研究専門学術誌『Genesis』に投稿後、査読を経て掲載された。 また、ゾラの後期作品においては、未来の科学技術を予告しそれが実現する描写が登場するが、これは物語内の予告と実現のみにとどまらず、理想的社会を提示するイデオロギーとしての役割を果たすことになる。この問題を取り扱った研究論文が、南山大学共同研究シリーズ論文集『近代科学と芸術創造―19~20世紀のヨーロッパにおける科学と文学の関係』に掲載・発行された。 夏期休業期間には、ジャンル比較のアプローチとして、ゾラの小説と舞台化作品を中心に、フランス国立図書館およびゾラ・センターで資料収集をおこなった。また、同時期にロンドンで公演されていたゾラの『テレーズ・ラカン』の舞台アダプテーションについてのレヴューを、フランスの自然主義文学研究学術誌である『Les Cahiers Naturalistes』の公式HPに投稿した。さらにジャンル比較について、南山大学開催「19~20世紀のヨーロッパにおける科学と文学の関係」シンポジウムにおいて、ゾラの小説『金』とその映画化作品中で予告あるいは布石として用いられている、機械の表象を比較分析した結果を発表した。 本年度後半には、研究計画に掲げたとおり、将来的にさらに広い視野の研究に展開させるため、モーパッサンをはじめとする他作家による予告および布石との比較分析の下準備を平行しておこなった。
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