本研究の目的は、19世紀後半から太平洋戦争前にかけて北米・カリフォルニア州へ移住し一大漁業共同体を築き上げた、和歌山県出身者を中心とする日本人漁民および缶詰業従事者の社会史を総括することにあり、そのために平成25~26年度にかけてアメリカ合衆国と和歌山県を中心とした史料調査を行ってきた。 調査内容は多岐に渡ったが、和歌山県太地町歴史資料室の協力による調査をはじめ、カリフォルニア州各地の図書館や公文書館にて史料を集めたほか、戦前の漁業共同体にゆかりのある人々に聞き取りも行った。当初の計画では共同体の生活史を描くことが目標であったが、調査の過程で共同体の在り方や漁民と缶詰会社との関係に重大な影響を与えたカリフォルニア政界の動きも見逃すことができなくなり、新たに調査項目として、日本人漁民をターゲットにした法案をめぐる運動も加えることとなった。結果としてロサンゼルス以外の漁業共同体、すなわちモントレーの共同体の調査を行うことが今回の調査期間中には不可能となってしまったが、そのかわり単なる共同体研究の枠組みを超え、日米関係やアメリカ史の視点から大局的に日本人漁業移民の歴史を語ることができるようになり、研究に厚みが出たように思う。 この研究の意義および重要性は、これまで農業移民中心に語られてきた日本人移民史に新たな光を投げかけることになるということだが、それ以外にも上述したように日米関係史の文脈の中で排日運動の新たな側面を解明できたことにある。すなわち、これまで外国人土地法や排日移民法の成立過程から解析されてきた移民排除の論理が、必ずしも漁民に対する排斥運動に当てはまらない部分もあり、そのことが漁業共同体の特殊性や行為主体性、また逆に脆弱性をも示しているということを明らかにできたと思う。
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