研究概要 |
本年度は、米国初の黒人芸術文化運動ハーレム・ルネサンス期において、コスモポリタニズムという思想を取り込んでいる文学作品を考察した。特に注目したのは、黒人知識人Alain Locke、黒人女性詩人Georgia Douglas Johnson、 Angelina Weld Grimke、Carrie Williams Clifford、黒人作家Nella Larsen、Jean Toomerなどの作品である。研究成果を二つの国内学会にて発表し、三つの研究論文として出版した。Johnson, Grimke, Cliffordらの黒人女性作家の詩は、近年に発掘されたばかりであり、その研究はいまだ発展途上の段階にある。学会発表および論文はそれぞれ、これまであまり研究されることのなかった黒人女性詩人の恋愛詩というジャンルに注目しつつ、いかにこれらの恋愛詩――特に愛やエクスタシーというテーマ――が、モダニズム期米国において、白人と黒人との二項対立に基づくカラーラインを超越した地平において、コスモポリタンな共同性を創造/想像する契機となっているかについて明らかにした。 さらに本年度は、カリブ海のノーベル賞詩人・戯曲家であるDereck Walcottの作品論を執筆し、西洋比較演劇学会発行のComparative Theatre Reviewにおけるウォルコット特集号に出版した。アメリカの奴隷制廃止論者David Walkerを登場人物とする戯曲『ウォーカー』は、アメリカにおける黒人ナショナリズムの伝統(黒人ナショナリスト演劇)と、カリブ海におけるコスモポリタニズムの伝統(混成演劇)とを対話的に上演するという実験性に特徴づけられる。本論考は、コスモポリタニズムという思想を、アメリカおよびカリブの思想的・歴史的文脈の双方から再検証する試みであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、交付内定が夏季休暇以降の時期であったため、夏季休暇中のアーカイブ調査を行うことはかなわなかった。とはいえ、本研究の重要な研究対象である一連の作家、Alain Locke, Georgia Douglas Johnson, Carrie Williams Clifford, Angelina Weld Grimke, Nella Larsen, Jean Toomer等の出版済みの小説や詩を精査し、来年度の研究への思想的・歴史的な土台を構築することができた。 研究成果を発表する場にも恵まれた。日本アメリカ文学会、専修大学人文学研究会で発表し、本務校の二つの学会誌(専修大学『現文研』、専修大学『人文科学研究所月報』)およびComparative Theatre Review、津田塾大学出版の所報(平成26年度に刊行予定)に出版することで、本務校の同僚および日本アメリカ文学会、西洋比較演劇学会の研究者からも貴重なレスポンスと批評を得ることができた。
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