研究実績の概要 |
カラーラインにより人種が二分化されていたかにみえる1920年代のハーレム・ルネサンス期(黒人初の芸術文化運動期)とは、同時に、多民族、多人種、多文化が共存しうるアメリカニズム/コスモポリタニズムという理想が様々な作家により模索された時期でもあった。今年度は、アメリカの黒人文学が内包する多様性への指向、地理的・時代的横断性を、ハーレム・ルネサンス期の黒人作家(Jean Toomer, Georgia Douglas Johnson, Angelina Grimke, Carrie William Clifford, Langston Hughes, Sterling Brown)の作品を精査し、論文にまとめた。従来の黒人文学批評においてはほとんど注目されることのなかった黒人女性詩人(Johnson, Grimke, Clifford)の作品を、コスモポリタニズムという視座から再評価できたことは一つの成果である。 加えて、アメリカのブラック・ナショナリズム思想に影響を受けつつも独自の多文化主義(群島性)をカリブ海地域を背景に戯曲化したセントルシアのノーベル賞作家Dereck Walcottについての批評を執筆・投稿した。また、村上春樹文学の翻訳者であるJay Rubin氏を招いたシンポジウムにおいて、村上文学とアメリカ黒人音楽ジャズとの関連について講演する機会も得た。本研究が焦点を当てる時代・地域とは異なるものの、これらの研究は、黒人によるコスモポリタニズムの伝統が、いかに時代や国家を超えた枠組みにおいて受容、変容、発展してきたかについて再考する機会を与えてくれた。 アーカイブ調査のため、ワシントンD.C.の議会図書館に赴き、黒人作家による貴重なマニュスクリプトの数々を手に入れることができた。来年度以降、文献を精査し、成果を発表できるよう努力したい。
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