本年度は、18~19世紀イギリス演劇における女性表象の変遷をたどることを目的として、"Representing Female Sexuality on the Victorian Stage: William Poel's 1892 Production of John Webster's The Duchess of Malfi"と題した研究論文を執筆した。この論文では、ロンドンのOpera Comiqueにて1892年10月に上演された、William Poelによる翻案劇『モルフィ公爵夫人』(John Webster原作)におけるヒロインのセクシュアリティ表象を、1892年の初演当時の社会的文化的背景と重ね合わせながら考察した。このPoelによる改作は出版されておらず、本論では、ロンドンのVictoria & Albert MuseumのBlythe House所蔵の二冊のpromptbookを分析した。この改作のヒロインのセクシュアリティに関する本格的な研究は今まで発表されておらず、本論がその第一歩となる。なお、この論文を作成するにあたり、Websterの原作におけるヒロインのセクシュアリティ表象への理解をより一層深めるため、ロンドンのSam Wanamaker Playhouseこけら落とし公演として上演された『モルフィ公爵夫人』を観劇し、劇評を執筆した。 また、前年度に行った18世紀初期のShakespeare歴史劇改作における女性表象の研究を補完し、18世紀演劇における女性表象の変遷を解明することを目的として、David GarrickとGeorge Colman共作『秘密結婚』(1766)におけるヒロインの表象の研究にも着手している。その研究成果については、日本英文学会全国大会において口頭発表を行うことが決定している。 さらに、女性表象研究の一環として、江戸後期を舞台とした2本の邦画(『百日紅』と『駆け込み女と駆け出し男』)における女性表象についての論考を執筆し、学術誌に掲載された。19世紀の女性たちをめぐる言説や彼女たちの演劇における描写について、日英比較の視点を得るための重要な一歩となった。
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