研究課題/領域番号 |
25884062
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
岩崎 大 東洋大学, 「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ, 研究助手 (80706565)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 死生学 / 哲学 / 終末期医療 / 緩和ケア / 死生観 / 自然観 / ぽっくり / 環境 |
研究概要 |
日本の終末期医療について現状を把握し、死生学の観点からケアのかたちを構築する試みにおいて、まず必要なのが、臨床における関係者それぞれの死への意識を分析することにある。平成25年度の研究は文献講読、意見交換を中心に考察を行い、いくつかの成果を報告した。本年度の研究は、上記の目標のために、死への意識の基層にある日本固有の死生観を分析すること、および、病や医療という特殊な環境によって生じる患者や周囲の者に特有の死の意識を分析すること、という二つの方向からの研究が主たるものであった。 日本固有の死生観とは、古来より続く神道、仏教の死生観を指すのではなく、それらの伝統の基に、西洋的、科学的な世界観の輸入などを含みつつも、多様な文化を混在させてきた現代日本特有の死生観である。そしてこの死生観が、もはや自らの生の態度に直結するような意味をもたなくなっているという現状こそが、本研究が問題とする点である。そのため、日本人の理想とする死に方の表現である「ぽっくり」という語の変遷を追うことで、その内実に潜む現代の死の隠蔽構造を明らかにした。 終末期医療における医療従事者側の、社会的、心理的な状況とその葛藤について、学会等における意見交換により現状把握に努めた。死への意識が苦悩をもたらすものである以上、医療現場においてそれをあえて持ち出すことは通常、行われない。しかしながら、死という、人間にとっての一大事を隠蔽し通すことは、死にゆく者にとっても、その周囲の者にとっても、自らの生と向き合い、生と死の意味を省察する機会を奪う。それゆえに、医療現場での死生学的ケアを実現させるためには、死を受容、肯定しうるような気づきを与える環境構築を要する。その一つの可能性として、自らの命をより巨視的な視点でとらえるための、自然観という視点に立ったケアのかたちを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究は文献講読と意見交換を中心にして計画されていた。文献講読については、死生観研究に関わる国内外の書籍、論文を参照することで、現代社会、そして日本に特有の死の隠蔽構造を、歴史的、文化比較的な始点で把握することができた。 意見交換については学会等において終末期医療に携わる臨床家との意見交換を行い、現状において死の語りがいかに現出しがたいかについて、その内実を理解することができた。 現場視察の機会を得られなかった点が、当初の計画とは異なるところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究を基礎として、死の隠蔽構造と死の苦悩に処するための、実現可能な緩和ケアのかたちを提示する。引き続き文献講読、意見交換を進める一方で、現場視察等も行い、考察を深めた上で、死生学研究の総論となる書籍を刊行すると共に、生と死の価値転換を促す環境構築を提案する論文を作成する予定である。
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