西域北道における誓願図について、昨年度に引き続き実作品の実地調査と、関連文献の検討を通して、主題内容、年代観、各地域における展開と地域間の影響関係等の包括的な考察を試みた。 調査に関して、当初は中国新疆ウイグル自治区クチャ地域の諸石窟において誓願図作例の追加調査を行う予定であったが、現地情勢が不安定であることを鑑みて、ドイツ・ロシア所蔵西域北道将来品および西域北道の石窟と関係の深い河西回廊の石窟の調査に変更した。まず、2014年8月4日から6日までベルリン・アジア美術館において特別観覧、続けて同月7日から10日までエルミタージュ・アムステルダム美術館において Expedition Silk Road展(サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館所蔵中央アジアコレクションの展覧会)を観覧して、西域北道の誓願図を精査するとともに関連作例を調査した。その結果、誓願図の制作年代の絞り込みや主題特定の手がかりとなりえる新知見を得ることができた。また2015年3月8日から16日まで、蘭州・敦煌間の河西回廊を踏査し、炳霊寺石窟、天梯山石窟、馬蹄寺石窟、楡林窟、莫高窟等のサイトにおいて、西域と関わりが深い北朝期石窟とウイグル期石窟を重点的に調査した。 以上の実地調査の成果を踏まえつつ誓願図作例の年代観を再検討し、誓願図の壁画内容と銘文、関連する仏典と比較検討を行った。とりわけ誓願図のプロトタイプと目されるクチャの作例の主題を検討し、その成果の一部を学会で発表し、論文を執筆した(『佛教藝術』340号、2015年5月)。
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