研究課題/領域番号 |
25884075
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
古荘 匡義 大谷大学, 文学部, 助教 (40710447)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 宗教間体験 / ミシェル・アンリ / 宗教多元主義 / 宗教間対話 / 現象学 / 綱島梁川 / ダライ・ラマ14世 / 実践 |
研究概要 |
既存の宗教間対話の理論は、宗教間対話を宗教間や宗派間での教理の相互「理解」として捉えるが、そうすると、排他的信仰をもって対立し合う宗教間での理解可能性や対話可能性を提示できないように思われる。このような宗教対立の場面でも対話が成立する可能性を理論的に提示するべく、本研究は、宗教間の「理解」ではなく、「体験」に着目する。すなわち、他の宗教に対峙することになった状況において、他宗教「理解」の手前で生じる根源的な自己「体験」を「宗教間体験」として捉え、この体験を行う自己の根源的なあり方を現象学的に記述しうる理論を構築する。この理論は、宗教対立のなかでの対話の可能性だけでなく、特定の信仰をもたない者が宗教者に対峙する場面など、「宗教間対話」の枠組みを超える対話の可能性も考察できるため、宗教間対話のさらなる可能性と多産性を哲学的に提示できるだろう。 平成25年度は、ミシェル・アンリの「キリスト教の哲学」の意義を解明することによって、宗教間対話の背景に存する「宗教間体験」を現象学的に記述するための理論の基盤を構築することができた。この成果はまだ論文として公刊できていないが、課程博士論文「ミシェル・アンリの『実践=哲学』」(平成25年12月に京都大学に提出、審査中)の結論部で発表している。口頭発表としては、日本宗教学会の学術大会で成果を発表しており、宗教間対話に関心をもつ研究者と議論や交流を行うことができた。さらに、研究計画を改良しうるような発見もあった。次年度(平成26年度)の研究では、「宗教間体験」の理論を具体的な実例に適用して検証する予定であるが、この具体的実例として、明治30年代に日本で開花した高山樗牛・綱島梁川・清沢満之らの思想も相応しいことを発見した。次年度の研究計画を改良して、さらに発展的な研究を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画は、順調に進展した点、十分進展しなかった点、予想以上に進展した点があり、全体としては概ね順調に進展したと思われる。 まず、平成25年度の研究計画の中心である、「宗教間体験」の基礎的理論の構築はおおむね順調に進展しており、課程博士論文「ミシェル・アンリの『実践=哲学』」(平成25年12月に京都大学文学研究科に提出、審査中)の結論部で成果を発表することができた。 ただ、本務校の業務および博士論文の執筆の関係で長期出張ができなかったため、ベルギーのミシェル・アンリ・アーカイヴの訪問調査の計画は実現できなかった。そこで、この調査は次年度(平成26年度)の計画に組み入れることとし、代わりに次年度の研究のための資料蒐集を平成25年度中に前倒しで行った。 この計画の変更に伴って、予定の研究計画を超えて研究を進展させうる研究対象を発見することができた。次年度の研究計画では、「宗教間体験」の理論を具体的な実例に適用することによって、理論を検証する予定であった。当初、この具体的実例として、ダライ・ラマ14世の宗教間対話を取り上げる予定だったが、次年度の研究のための資料蒐集を行ううちに、本研究をさらに進展させることのできる別の実例、すなわち、明治30年代に日本で開花した高山樗牛・綱島梁川・清沢満之らの思想を発見した。ただし、1年間でダライ・ラマ14世に加えてこの3人全員を研究することは困難であるため、次年度の研究対象には綱島梁川のみを追加する。とはいえ、綱島梁川を実例として扱うことで、次年度の研究を一層充実した成果を生み出すものにすることができ、さらに、研究期間終了後に本研究を宗教哲学や明治思想史の方面に展開させることができるだろう。 これらのことを勘案して、平成25年度の研究は概ね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は次の2点について研究する。(1)ミシェル・アンリの哲学をメルロ=ポンティや上田閑照らの思索と突き合わせて、宗教間体験の理論を完成させる。そして、(2)この理論を、ダライ・ラマ14世と綱島梁川の実践に適用して、理論の妥当性を検証する。 (1)近年、「間文化現象学」と銘打たれて展開されている現象学研究では、他者や異文化などと対峙する経験が構成される場が「間世界性」「間文化性」などの概念で考察されているが、これらの概念を「宗教間体験」に応用する際に問題となる点を、ミシェル・アンリ、上田閑照、メルロ=ポンティなどの哲学を用いて解決する。 (2)当初予定していたダライ・ラマ14世の宗教間対話の実践に加えて、綱島梁川の思想的実践を分析する。ダライ・ラマ14世は、諸宗教との積極的な対話実践を行うなかで、自らの仏教的な信仰を保持しながらも、他の宗教から深く学び、対話する姿勢を貫いている。綱島梁川は、結核の療養生活において深い絶望と挫折を経験するなかで、「見神」という神秘体験を経験するが、彼の思想は、見神体験とその言説化を反復するという思想的実践を通して、キリスト教以外の宗教や哲学を貪欲に吸収しながら一層深化していく。このような実践を行う2人のあり方を(1)で構築した理論を用いて現象学的・存在論的に記述する。
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