研究課題/領域番号 |
25884087
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
佐藤 愛弓 天理大学, 文学部, 准教授 (50460655)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 文献調査 / データベース / 説話研究 |
研究概要 |
本研究において以下のような研究実績をあげた事を報告する。 a)本研究は寺院における文献調査を基盤とするものであるが、平成25年度は勧修寺、東寺観智院、真福寺大須文庫を中心としてほぼ計画どおりの調査を進め、悉皆目録の作成や、本件のテーマである口伝・説話の収集において、予定どおりの成果をおさめることができた。 b)また平成25年度は定職を得たはじめての年であり、これを機に自らが中心となって調査を進めることができる研究拠点づくりを目指してきたが、その点についても機材や書籍の充実など着々と進めることができたと考える。しかし、ある程度の専門知識をもって恒常的に仕事に従事してもらう学生アルバイトの育成などの人材面の体制づくりにおいては、いまだ試行錯誤が続いており、課題が残すこととなった。 また本研究では寺院での文献調査を合理的に進めるためのデータベースフォームの構築を目指しているが、それについては専門家と打合せを重ね、ある程度の成果をみることができた。今後一年をかけて整備を進めていき、平成26年度は暫定版を完成させることとする。 c)平成25年度は上記のような文献調査の成果の一つとして学術論文「〔翻刻〕真福寺大須文庫蔵『袈裟表相』」を発表した。真福寺大須文庫蔵『袈裟表相』は各種の説話を用いながら僧侶に袈裟を布施することの意義をわかりやすく説いたものである。この論文では、そのような性質を持つ新出資料『袈裟表相』の書誌、諸本を説明し、その全文を翻刻した。当該資料は儀礼との関わりを感じさせる面もあり、寺院において説話がどのような意義をもって機能していたのかを具体的に示す資料であるため、本研究の考察を大きく進める意義を持つものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各寺院における文献調査の進捗状況については、計画通り進行することができた。ただし、それらの調査によって得られたデータを解析して、全体像を把握し、それをもとにして寺院社会における口伝の機能全体を考察することについては、まだ成果をうまくまとめられているとはいえず、データ活用の面では課題を残している。それらについては当初から平成26年度に行う予定としていたものであるため、今後の課題としたい。 また個別資料の紹介として論文「〔翻刻〕真福寺大須文庫蔵『袈裟表相』」を発表した。この資料は各種の説話を用いて袈裟を布施することを勧める文献で、口伝、説話と寺院社会との関係を考察する本研究の進捗について重要な意義を持つものである。 寺院資料調査に関しては、現在関わっているどの寺院の文献も非常に大部であるために全体像の把握には長い年月を要する。その点で長期的な課題を残しているといえよう。そのようなことも考えて、現在合理的に文献調査を進めるためのデータベースフォームの作成を手がけているが、その点に関しても専門家と打ち合わせを行い、一定の成果を得たといえる。これについてはこれまでの計画を進めを活かし、平成26年度には暫定版を完成させることとする。 また自ら中心となって調査を進めることのできる研究拠点の形成については、機材、書籍の収集に関しては順調に集められているといえるが、専門的知識を持つ学生アルバイトの人材育成などに課題を残す形となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、調査グループのメンバーとともに、これまで継続的に悉皆調査を続けてきた勧修寺資料の文献目録を完成させるとともに、他の寺院における文献調査をより積極的に進行させる。それらの寺院における調査データを活かし、さらに広範囲に口伝、説話に関する資料を収集していくこととする。 またこれまでの調査の過程において、どの寺院も膨大な資料を所蔵することがわかっており、それらを悉皆調査していくことには、より長期的な展望をもった調査手法の確立が必要であることが判明した。今後はシステム面、人材育成面の両方において、長期的な展望をもった調査手法確立のための準備を行いたい。 その一つの試みとして、現在専門家と打ち合わせをしながら、文献調査のためのデータフォームの作成を進めている。平成26年度はこのデータベースフォームの暫定版を完成させ、試行しながら整備をしていきたい。これまでより合理的に調査を進めることができるようになることは、調査によってかかる所蔵者側の負担を軽減することにつながり、所蔵者とより良好な関係を築くことに寄与するものと考える。 また、ある程度の専門知識をもった学生アルバイトを育成し、継続的な事業進行ができる環境をよりいっそう整備していくこととする。 平成26年度は上記のような調査環境の整備や、合理的な調査方法確立の準備を進めながらも、現時点で集められた口伝、説話データを解析し、考察を進めることとする。上記のようなデータシステムをもととして、より積極的にデータを活用して包括的に寺院社会を捉え、その中での口伝、説話の機能を考えたい。また貴族社会や武家社会における口伝、説話のあり方についても理解を深め、これらとの比較を進めることによって寺院社会における口伝、説話の特徴を考え、その成果を論文としてまとめることとする。
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