北京語の音声コーパス「北京口語語料」を利用した研究では、「beng」の縮約状態と後続動詞の出現頻度を比較して「後続動詞の頻度によってbengの縮約が進むのか」を考察した。「beng」に後続する頻度が高い動詞と「beng」の縮約の相関性を精査したところ、一部の高頻度動詞では縮約が進むもののそれ以上に調音音声学的な要因が縮約度合に大きな影響を与えていることが判明した。この結果から、出現頻度が言語構造に与える影響は微小であり、それ以外の言語構造的要因と競合した場合には容易に打ち消されると主張した。以上の知見は、出現頻度が言語構造に大きな影響を与えると考える「運用を基盤とした言語学(Usage-based Linguistics)」が常に当てはまるわけではないことを示唆しており、言語構造と出現頻度の関係性について一石を投じたと言える。以上の研究成果を2015年2月に東京外国語大学アジア・アフリカ研究所共同研究プロジェクト研究会にて発表した。 比較対象としての上海語の研究では、昨年度扱った「変調の音声的変化」を音韻論の観点から考察した。具体的には、変調の後半部の音韻表示を音響音声学的データにもとづいて提案した。この成果によって、上海語変調の音声変化の音韻モデルを作成することが可能となった。上海語の研究結果は2014年6月の日本言語学会第148回大会にて発表し、この発表は2014年11月に日本言語学会大会発表賞を受賞した。
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