本研究は、フランス家族政策でサービス給付の多様性を実現させた政治的戦略の分析であった。そのためのキーワードとして「自由選択」を挙げ、その機能の解明を研究目的とした。また、中央―地方関係を規定する「自由選択」の分析にも努めた。 フランスでは主たる保育方法として「認定保育ママ」が利用されており、その他に保育所やベビーシッター、育児休業給付を受けた親による保育など様々な保育方法を利用できるよう支援している。こうした多様な選択肢による保育の保障は「自由選択」として位置づけられる。問題はフランスでも日本でも保育所のほうが親の希望する保育方法としてニーズが高いにも関わらずフランスでは認定保育ママが主たる保育方法となっていることであった。この背景には地方分権と認定保育ママの再活用があった。 1980年代にフランスでは地方分権が行われ、サービス給付も地方が供給することになった。地方でのサービス給付の充実を支援するため、中央から地方へとサービス給付に対する支援を行ってきたが、分権化後の中央からの財政支援の不確実性が高かったため、自治体はサービス給付の中央との契約締結にためらいがあった。その結果、保育所の増設はある程度進むものの、女性の労働市場参加による保育ニーズを充足することはなかった。 そこでフランスでは、保育方法の不足を解決するため認定保育ママの雇用を中央から直接支援する現金給付を1990年に創設し、保育ニーズの充足を目指した。その後も認定保育ママへの経済的支援を強めた結果、認定保育ママの人数が急増し、主たる保育方法として「自由選択」の柱となっていった。 以上のように、サービス給付の多様性を実現するために保育所だけではなく認定保育ママが利用され、保育方法の選択肢を増やすことになった。その背景には地方分権によって中央と地方や契約によって保育サービスを整備する中央―地方関係の変容があった。
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