本年度の主な研究成果は次の2点にまとめられる。第一に、2003年に実施された国際学力調査PISA(Programme for International Student Assessment)のデータを用いて、教育期待に対する性別と出身階層の影響について日米比較を行った。日本とアメリカの共通点として、生徒の教育期待(大学進学を期待するかどうか)に対して数学自己効力感という主観的要因が正の効果をもっている点、また、数学の学力を一定とした場合、男子の数学自己効力感が女子に比べて高い点を指摘できる。ただし、日本と異なりアメリカでは女子の方が大学進学を期待しやすい。そのため、日本では数学自己効力感による媒介を考慮することで大学進学期待に対する性別の直接効果が小さくなるが、アメリカでは逆に数学自己効力感による媒介を考慮することで大学進学期待に対する性別の直接効果が大きくなる。なお、大学進学期待に対する出身階層の効果については日米どちらに関しても約5%が数学自己効力感によって媒介されている。 第二に、ベネッセコーポレーション「学習基本調査」の公開データをもとに二次分析を行い、中学生の「がんばればとれると思う成績」という今後の努力による学力向上の可能性を考慮に入れた主観的要因に着目した分析を行った。分析の結果、学力や成績自己評価を一定とした場合にも、高学歴の親をもつ生徒はそうでない生徒に比べて「がんばればとれると思う成績」が高いこと、また、「がんばればとれると思う成績」が高い生徒ほど大学進学を期待しやすいことが明らかになった。
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