研究実績の概要 |
1.昨年度作成していた60種の点図読み取り課題を精査し,実験用触図課題を37種に絞った。それらを,触知覚課題群(28種)と触認知課題群(9種)に大別した。触知覚課題とは,指がとらえた触覚象をそのまま保持しその後の弁別時に想起する課題である(例えば,刺激図形と同一の図形を探す課題等)。触認知課題とは,指がとらえた触覚象を,一時的にイメージ操作(回転・拡縮等)した後に回答する課題である(例えば,刺激図形を触った後,その4倍の面積をもつ図形をイメージし選択肢から探す課題等)。 2.広島・彦根・仙台にての実際の触図実験では,被験者は成人25名。うち先天盲グループ8名,後天盲グループ17名であった。点図の読み取り経験のない者は先天盲5名,後天盲17名であった。 3.触知覚/触認知課題の全体正答率からは,相対的に,先天盲グループは触知覚課題に強く,後天盲グループは触認知課題に強かった。また,図形の弁別では,先天盲は,図形種類差やサイズ差に関わらず高い正答率を示したのに対して,後天盲では,三角形→円→正方形→平行四辺形の順で図形弁別が容易であり,図形サイズでは,1辺または直径が9.5mm前後が最も正答率が高いことがわかった。 4.触認知に関わる課題では,点図未学習の先天盲では,それらのすべてが触知覚能力より難しい課題として排列されるのに対して,後天盲では,単純な触知覚能力を見る課題よりも優しい触認知課題が多数見られた。つまり,点図読み取り能力のうち,触認知に関わる能力(イメージ操作の力)は点字触読を中心とする触知覚を高める指導だけでは自然と身についてこない力であることがわかった。視覚を用いてのイメージ展開が期待できない点字学習者に対しては,「早期からの教育場面における意図的なイメージ操作能力を高める点図を用いた指導」が求められているといえる。
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