研究課題/領域番号 |
25885011
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
牛島 光一 筑波大学, システム情報系, 助教 (80707901)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 応用計量経済学 / 教育の経済学 / 健康の経済学 / 医療制度改革 / 教育制度改革 / 自然実験 |
研究概要 |
平成25年度は本研究プロジェクトの第1年目である。教育が健康に与える影響について研究を進めた。この研究では、親の教育水準が高いほど子供の病気を正確に評価できるという仮説を検証する。この仮説を検証することで、これまで研究の蓄積がほとんどなされていない、親の教育水準と小児期の子供の健康の因果関係の一部を明らかにすることができる。研究の蓄積が少ない理由としては、親の教育水準の内生性の問題の解決が困難であること、さらに、小児期の子供の影響を与える様々な要因と親の教育水準からの影響を識別することが困難であること、が挙げられる。本研究は二つの自然実験的状況(①親世代が経験した教育政策の変化・学校建設、②2002年に行われた大規模な医療保障制度改革)を利用して、先行研究が悩まされた因果識別の問題を解決する。 これらの自然実験をより厳密に利用するために平成25年度は、①教育資源拡充に関するデータベースを作成した。これは、1930年から2000年までの県別小中学校数・教員数・生徒数などをハードコピー(もしくはデジカメ画像)から手入力作業により、データベースを構築した。そして②大規模な医療制度改革の制度変更に関する詳細な資料の収集及び整理を行った。これらは、Silpakorn UniversityのWatcharin Anekpongpan講師の協力のもと、タイの国立図書館およびチュラロンコーン大学内の複数の図書館より収集した。さらに、追加的な分析に必要な情報として、健康アウトカム(年齢別死亡率)に関する情報開示についてタイ保健省と交渉している。 本研究に関して、基本的な分析結果は得られているためそれらをまとめて、国際コンファレンスや研究集会などで報告を行った。これらの報告会におけるコメントをもとに研究を改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の目標は、①県別年度別の教育資源に関する情報の収集およびデータベース(DB)の構築、②県別年齢別死亡率のパネルデータの収集、③それらに基づく研究成果の報告であった。以下の理由により、本研究プロジェクトは、おおむね順調に進展していると自己評価する。①については20GB以上の画像情報から手入力で作成した。当初に予想していた以上の作業量であったが予定通り遂行することが出来た。②については、タイ国における事情に依るためか、保健省とのやり取りに若干の時間を要している。そのため、当初の目標を達成できていない。しかし、代替的な情報を収集することが出来たため場合によってはそちらを用いて研究を遂行する予定である。③については、現在得られている結果をもとに、いくつかのコンファレンス等で報告を行っており、さらに、今後も報告の予定がある。 また、①および②に関する情報収集の折に平成26年度に収集予定の情報(医療資源の年度別県別の情報)を合せて入手することができた。これにより、②の遅れの分を挽回していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2つのテーマから構成される。テーマ①では、タイで行われた教育政策と医療政策の変更のそれぞれを自然実験として、仮説「母親の教育水準が高いほど子供の健康評価を正確に行える」を検証する。テーマ②では、タイの1960年代以降に生まれた世代において、女性の教育水準が男性の教育水準を上回るようになった理由を明らかにするために、医療政策や教育政策による職業構造の変化に着目した分析を行う。 テーマ①の研究に関しては主たる分析に対する結果は得られている。さらに、分析精度の改善、および、健康アウトカム(地域別年齢別死亡率)に着目した追加的な分析を行う必要がある。分析精度の改善に必要な情報は、既に述べたとおり、データベース化済である。今後は、その情報を分析データベースと結合し分析する。さらに、子供の健康をより正確に行えることが健康アウトカムに対してどのくらい影響を与えるのか評価する必要がある。これについてもすでに述べたとおり、いくつかの経路を通じてタイ保健省とやり取りをしている。テーマ①に関しては主たる分析結果は得られているため、既に何度か研究報告を行っており、今年度もいくつかの研究報告を行うことが決まっている。今年度に行う分析結果も取りまとめて論文を執筆し、海外雑誌に投稿する。 テーマ②の研究も主たる分析結果は得られているが、それに対する考察を深める必要がある。具体的には、女性の教育の収益率が男性よりも高いこと、女児の方が男児よりもより教育投資を受けることは明らかになっているが、それはどうしてなのかについて議論・考察する必要がある。この議論のために、高等教育を受けた女性の就業比率が非常に高い労働市場(教育・医療)に着目する。こちらの研究に関しても、本年度中に論文を執筆し、投稿する。
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