人々が自由に立地を選ぶことができる多地域経済成長モデルを考え,地域間人口分布の均衡経路を,ポテンシャル関数と呼ばれる関数の最適制御問題の解として求めることができることを示した.また,地域間人口分布の定常均衡は一般に複数存在することを示し,進化ゲーム理論の完全予見動学に関する知見を活かしながら,多地域経済成長モデルのリテラチャーでこれまであまり取り組まれてこなかった定常均衡の安定性を分析した.特に,動学モデル特有のパラメーターである人々の時間選好率が,人口集積の生産性向上と混雑に与える影響のトレード・オフを介して,安定な定常均衡の性質に大きな影響を与えることを示した.
また,モデルのアプリケーションとして,地域間所得格差とネットワークの問題を扱った.地域間所得格差に関しては,地域所得が均斉成長経路に乗る条件と,成長しない定常状態に収束する条件をそれぞれ求めた.さらに,均斉成長経路に乗る地域と,定常状態に収束する地域が共存する状態が安定な均衡になり得ることを,数値例により示した.ネットワークに関しては,生産技術の地域間スピルオーバーに関するネットワーク構造が,安定な定常均衡に与える影響を分析した.具体的には,スピルオーバーの強さが,局所的には密だが拡散性の低いネットワークと,局所的には粗だが拡散性の高いネットワークの2種類のネットワークを比較した.特に,どちらのネットワークが安定な均衡において高い平均生産性を実現するかは人々の時間選好率に依存することを数値例により示した.
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