本研究の課題は、超高層マンションの広告表現やモデルルームの分析を通して、現在、どのような居住空間が人びとに望ましいものとして了解されているのかを分析し、今後の都市・住宅政策を考えるうえで基礎となる知見を提供することにある。 本年度はこの課題を遂行するにあたり、昨年度に引き続き、1.東京の「現状分析」、2.東京とその他の大都市との「比較分析」という2つの側面から調査と分析を行った。具体的には、モデルルームでの参与観察、資料調査(分譲パンフレット・図面集・物件webサイト)、現地物件視察調査などを通して、今後の都市住宅の「変化の方向性」に関する分析を行った。そしてその成果の一部を、学会等の報告および雑誌論文においてそれぞれ発表した。 本年度の研究成果により、東京と海外の大都市との間には、住宅の商品化のモードに明らかな差異のあることがわかった。たとえば、東京では身体の〈快適性〉に照準した商品化がモードとなっているのに対し、ニューヨークでは〈ラグジュアリ〉に照準した商品化がモードとなっている。こうしたモードの相違は、購買層や購入動機の差異と深く関わっていると考えられる。すなわち、東京ではミドルクラスを対象とした「居住」のための購買が多いのに対し、ニューヨークではアッパー・ミドルクラス以上を対象とした「投資」のための購買が多いといった点である。 また、今後の都市の高齢化の趨勢を踏まえるならば、超高層マンションの購買層のなかに、自宅を売却して住み替えを行っている高齢者が複数の都市に共通して見受けられた点に留意する必要がある。このことは都市住宅の変化の方向性として、高齢者の居住福祉への対応という課題を示唆しており、この点をふまえた都市・住宅政策を検討する必要がある。
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