研究課題/領域番号 |
25885027
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田口 康大 東京大学, 教育学研究科(研究院), 講師 (70710804)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | プレスナー / 哲学的人間学 / 脱中心的位置性 / 自然的技巧性 / 環境世界 / 心身論 / 医学的人間学 / 笑いと泣き |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘルムート・プレスナーの哲学的人間学理論をもとに、人間存在における多様な「境界」の現れ方の考察を通して、人間存在にとって望ましい「境界」のあり方を探ることを目的としている。 プレスナーは脱中心的位置性という概念を人間存在の特異性として表したが、脱中心的位置にあるために人間は本性的に不均衡にして不安定な存在であり、その状態から脱するために文化や技術の創造に方向付けられてるとした。それはまた、人間と環境との境界の曖昧さに対し、暫定的な境界を措定するためでもある。 その考えに基づくならば、教育もまた存在の安定のための文化・技術と捉えることが可能であるが、時代や空間、個人によって安定に資するものは異なるため、教育は動的なものと位置づけられる。ここから、存在の安定として教育があるためには、人間と環境との関係すなわち「境界」がその時々によって、どのように表れているのかを仔細に見定めることが必要であることを導出した。 人間存在の安定を考えるに際して、重要となるのは、人間が肉体という自然と精神とから構成されながらも、その双方にまたがって存在しているということである。すなわち、人間は、肉体と精神という二重のアスペクトをなしており、その生経験と構造とを、肉体と精神の二重のアスペクトの統一と対立、逸脱と交差、作用と反作用という内的関連からとらえなければならない。プレスナーは、二重のあり方が様々に屈折しながらも、統一されて現れているという事実を重視するが、さらにまた、身体の二重性の屈折と統一そのものを、あたかも身体から離れて、外から眺望しているかのような状態にあるという、第三の視点を描き出す。 本年度は、プレスナーのこのような理論をもとに、現代文化の様々な現象を読み解こうとする議論・研究の動向を調査することができた。これらの研究成果については近年中に公刊する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、プレスナーの哲学的人間学理論における、人間存在の境界の意味をめぐる考察を行った。 境界をめぐっては、①身体と環境世界との関係、②主体形成における身体イメージ、③個人と社会とに着目する大きく三つの研究に分類しうることが明らかとなった。また、プレスナーの「境界」概念は、哲学的分野のみならず、教育学、社会学、医学、ジェンダー・スタディーズ、ソーシャルワーク論など多様な分野にて、考察を深めるためのキータームとして用いられていることを明らかとした。 これらはプレスナー理論の様々な分野への応用可能性を提示するものとして、一定の成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初予定計画通り、人間存在における境界の意味と教育との関係を、理論的かつ実践的な見地から考察していく予定である。その際、特に着目するのは文化や技術の創出に方向付けられている人間本性を説明する概念である「自然的技巧性」と、存在と環境との境界措定の役割を果たすものとして社交の技術論である。
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