本研究では、ヘルムート・プレスナーの哲学的人間学理論をもとに、人間存在における多様な「境界」の現れ方の考察を通して、人間存在にとって望ましい「境界」のあり方を探ることを目的としている。 プレスナーは脱中心的位置性という概念を人間存在の特異性として現したが、脱中心的位置にあるために人間は本性的に不均衡にして不安定な存在であり、その状態から脱するために文化や技術の創造に方向付けられてるとした。それはまた、人間と環境との曖昧な境界に対し、境界を暫定的に措定することで、安定を得るためでもある。 その考えに基づくならば、教育もまた存在の安定のための文化・技術と捉えることが可能であるが、時代や空間、個人によって安定に資するものは異なるため、教育は動的なものと位置づけられる。ここから、存在の安定に資するものとして教育があるためには、人間と環境との関係すなわち「境界」を仔細に見定めることが必要であることを導出した。 本年度は、境界を措定するための技術の一つとしてプレスナーが重視している、対人関係の技術論、その中でもDiplomatie及びTakt概念に着目した。それら概念は、人間の本性的な脆弱さの暴露を避けること、すなわち不安定化の防止を目的とした、合意形成と関係調整という役割にある。現代においては、対人関係において求められる技術はかなり複雑多岐に渡る。そうであるからこそ、存在の安定という観点及びそれに資するものとしての教育という観点から、対人関係ないしは社会生活上の技術論の問い直しが必要である。
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