平成26年度は,地域経済の成長について『工業統計調査』の事業所個票データを用いてミクロレベルで実証分析を行った。特に,動学的外部性が働く産業クラスターと地域経済の成長について着目し,集計された地域産業データではなく事業所個票データを用いることで,動学的外部性のひとつとされる技術革新を促すイノベーションが経済成長へ寄与する大きさや,動学的外部性が産業クラスターの地理的分布範囲を事業所レベルで詳細に観察することができた。 分析では,2007年から2012年における従業者30人以上の製造業事業所(全国)を対象とし,事業所の生産性成長を推定した。事業所の生産性成長は全要素生産性(TFP)の成長により捉えるが,推定するモデルには,生産者の効率性評価を行うことができる確率フロンティアモデルを適用した。このモデルにより,既存研究で考慮されていなかった生産活動における非効率性を含まない生産性が推定可能となり,より現実に即したTFP成長を推定することができた。また,推定したTFP成長は要因分解することが可能であるため,イノベーションに関わる要因が寄与する生産性成長について検証した。 分析結果より,イノベーションによる生産性成長が促されている産業クラスターは,産業ごとに地理的範囲および事業所の立地密度が異なって形成されていることが明らかとなった。また,技術的な連携が強い産業間の産業クラスターは,形成範囲の一部が重なっていることも判明した。Yamada and Kawakami(2015)では,多様な産業間の連携と地域経済の成長には産業クラスターが関係していることを示しているが,本研究により,事業所の住所データをもとに,イノベーションと関わりの強い産業クラスターが形成されている具体的な地理的範囲について確認することができた。
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