ヒトは、表情を通じて相手の心的状況を読み取ることで、相手が次にとり得る行動を予測したり、相手に対する適切な応答を準備したりする。このため、怒りや幸福といった感情を表す表情を素早く正確に検出することは、ヒトの対人コミュニケーションにおいて重要な役割を果たす。 これまでの研究によって、感情表情は中性表情に比べて素早く検出されることが明らかにされてきた。広汎性発達障害は、表情を通じた対人相互作用の問題が顕著であることが知られているが、感情表情の素早い検出における行動・神経メカニズムは明らかになっていない。 平成26年度は、広汎性発達障害における感情表情の検出メカニズムを調べるために、広汎性発達障害者を対象として、複数の中性表情の中から一つの感情表情(怒り表情・幸福表情)またはそれらの逆表情(中性感情を示す)を検出する視覚探索課題遂行時の反応時間と正答率を収集した。比較データとして定型発達者を対象に同じ課題を実施した。その結果、定型発達者では、怒り表情・幸福表情ともに逆表情に比べて感情表情が素早く検出された。一方、広汎性発達障害者では、怒り表情においては定型発達者と同様に、逆表情に比べて感情表情が素早く検出される傾向が見られたが、幸福表情においては感情表情と逆表情の検出に差はなかった。このように、広汎性発達障害者においては、幸福表情で情動的意義に起因した検出は見られず、定型発達者と異なる反応パターンを示すことがわかった。今後、さらに脳波計測実験をすすめ、感情表情の素早い検出における神経メカニズムについて、広汎性発達障害に特異性があるか検討をすすめたい。
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