本研究の目的は、負ののれんの発生原因を、実際のデータを用いた実証分析によって解明することにある。負ののれんは、米国ではその発生事例が少なく、実証的な研究がほとんど行われていないが、日本では高い頻度で生じており、その経済的インパクトの大きさから、重要な研究トピックといえる。 前年度の研究からは、企業結合における買収プレミアムの大きさというよりは、識別可能資産および負債の時価評価が、負ののれんの発生と関連することが示唆された。この点をふまえ、最終年度においては、先行研究で指摘されてきた(ⅰ)資産・負債の測定誤差、(ⅱ)割安購入、(ⅲ)売り手企業の再構築費用、および(ⅳ)負のシナジーに加え、業界再編や生き残りという視点から実証分析を行った。その結果、資産・負債の測定誤差、売り手企業の株価水準に起因する割安購入、および業界再編や生き残りが負ののれんの発生原因となっていることが示唆された。一方、先行研究で指摘されてきた、売り手企業の再構築費用という要因は、分析対象とした上場企業同士の企業結合においては、負ののれんの発生原因となっていないことが示唆された。
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