研究課題/領域番号 |
25885071
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
濱野 正樹 上智大学, 経済学部, 助教 (20711089)
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研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
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キーワード | 財の品質 / 実質為替レート / リスクシェアリング / 異質な企業 / 国際情報交換 |
研究概要 |
近年貿易における国際分業体制において、財の品質(quality)による生産の特化が実証的に明らかにされてきた。本研究は財の種類や、財の品質といったものが内生的に変化するような現実的な状況を考慮し、実質為替レートがどのような変化を示すか、または、財の種類や、財の品質といった、新たな次元の消費のリスクに直面したとき、家計は国際間でどのようなリスクヘッジを行うのであろうか?といった問いを中心に、理論モデルを構築し、さらには実証的にそのメカニズムの妥当性を検証することを目的としている。 2013年度は、閉鎖経済における財の品質の変化を含んだモデルであるHamano(2013a)を二国モデルに拡張することにまず着手した。Melitz型のヘテロな企業をベースにした二国モデルであるが、Baldwin and Harrigan (2011)のように、企業固有の生産コストと、その製品の性質の間に、極めて単純な関数形を想定し、平均的な輸出企業の生産性と、その製品の品質が内生的に変化するようなメカニズムを獲得した。理論モデルのカリブレーションもすでに着手している。また、8月と3月には、ヨーロッパへの出張を行い(パリ政治学院、ルクセンブルク、オックスフォード大学)現地研究者らとの意見交換を行った。得にルクセンブルク大学のPierre Picard教授,パリ政治学院のPhilippe Martin教授とは理論モデルの妥当性について議論を深め、新たな示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、2013年度に理論モデルの構築はほぼ完了した。具体的には、Hamano (2013a)を二国モデルに拡張することであった。そのさい、企業は、独占的競争を行い、各企業は固有の品質を持った製品を一種類生産すると仮定すし、また企業は市場に新規参入する際に埋没費用を支払い、その企業に固有の「能力(capability)」(Sutton,1998)を所与の確率分布から抽選する。この「能力」が企業固有の生産性と品質に変化するのであるが、Verhoogen (2008)やKugler and Verhoogen (2012)で指摘された実証事実に基づき、企業固有の生産性と品質の間には負の相関があると仮定された。つまり高品質の財の生産には高い限界費用を支払わねばならない。さらに企業は生産にあたって、労働の限界費用以外に、生産のための固定費用を払うと仮定する。Hamano(2013a)で議論されたようにこの全企業に共通な生産のための固定費用の存在が、異質な(heterogeneous)企業の仮定と相まって、製品の品質、または生産性をベースにしたシュンぺ―タ的な淘汰を引き起こす。加えて企業は自国のみならず、外国にも製品を輸出することが可能である。そのためにはアイスバーグ(ice berg)タイプの取引費用を支払わねばならないとし、さらにはGhironi and Melitz (2005)にならって、輸出のための固定費用を支払わねばならないと仮定する。この全企業に共通な固定費の存在のために、消費者にアピールできる一部の高品質な財を生産できる企業のみが実際に輸出することが可能となるメカニズムが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に構築した動学的一般均衡モデルを吟味することに主に時間は費やされる。モデルの直観的吟味は主にカリブレーションによって行われる。そのさい必要な構造パラメーターの値は主に先行研究から選択され(必要とあればOECDのデータに基づき推計を行う)、労働生産性のショック、政府の財政ショック、上記で述べた三つの固定費、さらには貿易における取引費用の増減に対するショックに対して、Impulse response functionsが導出される。 加えてモデルの現実的妥当性を測るために、開放経済下における生産、消費、投資といった重要な経済諸変数の、分散、共分散といった二次モーメントを現実データと比較する。数学モデルは二国の仮定を置いているが、比較対象となる現実データはOECD諸国のもの (Main Economic Indicator等) を用い仮想的な自国と外国を構築して対処する。また各国の財の品質に関するデータの構築は、もっとも単純な方法として、Baldwin and Harrigan (2011)に倣い、NBERやCEPIIの貿易データの「単位価格」(unit value)からOECD諸国における平均的輸出財(製造業)品質の時系列変化を追う予定である。またHamano(2013a)にあるように企業間の独占的競争が、コストか、または品質をベースにしたものかを決めるパラメーターなど、重要なものについては、Sensitivity analysisを行う予定である。カリブレーションはUhlig(1998)など通常のリアル・ビジネス・サイクルの方法に従い、高性能PC及び行列演算ソフトを用いる。最後に本研究は定量分析が主眼であるが、モデルの直観をより鮮明にするために、Hamano(2013b)にあるように線形化したモデルを解析的に解くことも視野に入れる。
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